日本の人材ビジネスは新卒・中途の求人サイトに加え、若手・中堅層を対象とした登録型の転職エージェント、エグゼクティブクラスを狙うヘッドハンターまで多種多様だ。いずれSNSが業界地図を大きく塗り替える可能性がある。

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既存の人材サービス業界とダイレクトリクルーティング

最初に影響を受けるだろうと人材業界の関係者が異口同音に強調するのが転職市場だ。すでに様々なフェイスブックの採用アプリケーションも登場している。ソーシャルリクルーティングサービスの企画・開発会社のガーブスは、11年1月に「ソーシャルジョブポスティング」と呼ぶフェイスブック上に求人票を公開し、求職者とコミュニケーションできるサービスを開始した。企業は応募者の履歴だけではなく、交友関係など幅広い情報をキャッチすることができる。

さらに今は転職する気はないが企業に興味がある人、一度不採用になった求職者を登録しておき人材が欲しいときに探し出して声をかける「タレントプール」という機能も付いている。現在、日本をはじめアジアの19カ国で導入され、企業ユーザーは1000社を超えている。

SNSが採用市場に与える影響について同社の大畑貴文代表取締役は「既存の人材会社がなくなり、全部がソーシャルリクルーティングに入れ替わることはないが、ゼロの市場から3割ぐらいに伸びるのは間違いない」と語る。

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図5 人材サービスへの投資は削減、ソーシャルメディアへの投資は増やす(「Jobvite Social Recruiting Survey 2011」をもとに編集部作成。)

前出のエン・ジャパンも「エントリーワーク」と呼ぶフェイスブック上の転職アプリを開発し、5月末にサービスを開始している。最大の特徴は企業が自社の社員を通じて社員の友人にアプローチすることができる点だ。

「たとえば1人の社員のフェイスブック上に100人の友人がいれば、その友人の友人までコンタクトできる。これまでも社員の紹介で採用する企業はありましたが、人事から紹介してよ、と言われて思い出せるのはせいぜい10人くらい。それがフェイスブック上に100人リストアップされていれば理論上は100人×100人の潜在的な求職者にコンタクトがとれることになります」(福田部長)

企業の人事担当者は出身大学などの学歴や社歴などフェイスブック上の情報を閲覧できるとともに、社員の紹介でアプローチできる。エン・ジャパンが乗り出した背景には、ソーシャルリクルーティング隆盛への危機感がある。「当社は小さな会社ながら、いち早く求人サイトを立ち上げた会社ですが、同じようなことが起こるのではないか。やられるぐらいであればこちらもやろうという思いで始めた」(福田部長)という。

※すべて雑誌掲載当時

(小林雄一、的野弘路=撮影)