じつは先日、私は興味深い経験をした。スケジュールを書き込んだ手帳を落としてしまったのだ。私は手帳を失くしたとたん、普段の半分しか仕事ができなくなってしまった。私にとっての手帳は、仕事をするために必要な一定の環境をつくるものだったわけだ。このほかトイレや風呂、ベッドの中だと集中できる、というのも環境の統一・一貫性が整っているからである。

試合や試験で、雰囲気にのまれて実力が発揮できなくなるのも同じ原理だ。脳がいつもと違う環境だと思って、環境の統一・一貫性が変わったと考えてしまう。だから試合や試験で結果を残したければ、「いつもと同じ環境だ」と思うことが重要だ。

環境の統一・一貫性を好むという人間の本能を活用する方法には、ほかにもさまざまなパターンがある。たとえば野球のイチロー選手がバッターボックスでバットを垂直に立てるのもその一つだ。彼は目線の水平を確認することで、脳の左右の空間認知能を正確に発揮し、どんなコースのボールでも確実に打てるような環境を整えている。

子供に「早寝早起き」などの規則正しい生活を身につけることが大切だといわれるのも同じことだ。朝寝坊が多かったり、両親の関係が不安定だったりする子供は、環境の統一・一貫性が保たれないので、間違っていることやスジの通らないことに対しても鈍感になり、学習能力も低下してしまうことが指摘されている。

(構成=山田清機 撮影=小倉和徳)