チャンドラーはこのように言葉の定義を行った後、具体的に踏み込んでいく。彼は戦略の本質を、企業が成長を達成するための手段として何を選ぶかという選択の問題、と説いた。そして「枠組みを変える」成長の手段は、3つしかないと言う。

1つ目が「地理的拡大」。製品をより広い市場へ供給していく。2つ目が「垂直統合」。現在の事業の川上、もしくは川下まで取り込んでいく。3つ目が、「多角化」。手掛けてきた事業に加え、新たな事業を興していく。チャンドラーの最大の功績は、3つの成長手段のそれぞれに、適した組織があると指摘したことだ。

「組織は戦略に従う」という言葉は、このことを意味する。地理的拡大を選べば、北米本部や欧州本部といった地域本部制の組織になる。垂直統合を選ぶなら、社長の下に営業部や製造部などの機能組織がぶら下がった組織になっていく。多角化を選んだら、オーディオ事業部や金融事業部といった事業部制へ落ち着くというわけだ。

この3つの選択肢は、組織にそれぞれ別の負荷をかける。3つのうち2つの選択肢を同時追求するのなら、マトリックス型組織でなんとか対応できる。しかし、3つの選択肢を同時追求することは混乱を引き起こす。今、日本の電機メーカーが苦しんでいる要因はここにある。

パナソニック(旧松下電器産業)は、松下幸之助氏の砲弾型自転車ランプで飛躍した。その後、さまざまな電化製品へと「多角化」し、いち早く事業部制を採用。川上では電子部品まで手掛け、川下ではナショナルショップを展開し、「垂直統合」も実現した。

1980年代に国際化が進むと、「地理的拡大」を行い、中国などに工場を展開した。しかし、それぞれの事業部が管理部門を抱え、重複と無駄が多くなる。そのため、中国本部のような組織をつくり対応を試みたが、事業部と地域本部のコンフリクトが起き始めた。

この混乱はパナソニックの経営そのものがまずいせいではない。三択問題なのに、3つの回答すべてにマルをつけるような行為が問題なのだ。戦略とは選択である。しかし、「多角化」「垂直統合」「地理的拡大」のすべてを選んでしまった時点で、それは戦略の放棄と同義になる。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=原 英次郎)