大前 旧通産省が消滅したのは、国家戦略とは別の、異なる理由からです。当時の首相であった橋本龍太郎は、行政府の機能の縦割り化は、省庁の数が多すぎることに原因があると考えました。そこで橋本元首相は省庁再編をまとめあげたのです。

しかし実際にやったことといえば、各省庁の役割や機能をきちんと定義せずに、省庁を単純に合併させただけでした。つまりDNA配列が異なる官僚が、無理矢理一つの体内に押し込まれたようなものです。当然、拒絶反応ならぬ、内部抗争が起こったのです。役所の数は減りましたが、役人は一人も減らなかった。そこで役人が専門細分化し、小粒になってしまった、ということです。

後から考えれば致命的ミスだったわけですが、当時は誰もそれに気づかなかった。何しろ、労働省、社会保険庁、厚生省といった機能や役割がまったく異なる省庁を一つにしたのですから。結果として、新しく出来上がった厚生労働省は国家予算の二九%を取り仕切ることになりました。しかし、たった一人の厚生労働大臣が、国家予算の三分の一近くを管理するなど、できるわけがない。

この省庁再編劇は大失敗に終わりました。一部の人間の“合理的な”発想によって断行された省庁再編により、それまである程度景色が見え、優秀だった官僚たちは視界を失いやる気も使命感も失ったのです。

(ジャック・アタリ氏との対談より)