厳しい前座修業はパワハラになるのか

弟子がやめました。

両親を交えた面接をし、コロナ禍でも思いが変わらないことを確認した上で昨年11月から入門した29歳の若者でした。とても真面目な子です。

末広亭
写真=iStock.com/mizoula
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この世界は真面目過ぎてもダメですし、かと言って不真面目だと絶対に生きていけません。だから、彼の先輩前座さんには「厳しく教えてあげてね」とお願いしていました。自分の場合も師匠に怒鳴られながら育ててもらってきましたので、やはり近いことしかできません。

以来2カ月半見習いとして私の落語会や寄席の楽屋などで先輩前座さんから指導を受けながら過ごして来ましたが、この度、「想像していた以上の過酷さに睡眠不足にもなり、ついてゆけなくなりました」とのメッセージを寄越してきました。

去る者は見送るまでです。自分は師匠に何度も言われました。「俺はお前にここにいてくれと頼んだわけではない」と。

広小路亭の後、彼は私を出待ちして、挨拶に来てくれました。ラストに立つ鳥後を濁さずの了見で来た彼の勇気を誉めてあげました。やめるのにも覚悟はいるのでしょう。「何かあったら応援するよ」と去りゆく彼に語りかけました。

可哀想ですがこの厳しさが落語界です。しかし、彼の背中をみながら、ふと思ったのです。前座修業の厳しさはパワハラになるのだろうかと。

2020年より施行された「改正労働施策総合推進法」(通称パワハラ防止法)。

その定義を見ると、①職場において②優越的な関係を背景とした言動であって、③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、④(その事業主の雇用する)労働者の就業環境が害されるもの(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)。以上、これらの要素をすべて満たすものが「パワハラ」と認定されるそうです(『「職場のハラスメント」早わかり』布施直春著・PHPビジネス新書より)。今年4月からは中小企業も含めた全企業でそれが義務化されますが、定義を読んでもあいまいで、迷う経営者は多そうです。