政府はこども政策の司令塔となる新たな組織「こども家庭庁」を2023年度に創設する方針だ。埼玉県で認可保育園の代表を務める中村敏也さんは「こども庁ではなく、こども家庭庁となったことで、子育てを家庭に押し付けたい意図を感じる。もっと社会全体で子育てをする方向に進むべきではないか」という――。
3人の子供を連れた母親の背中
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「認定こども園」は問題を増やしただけだった

2023年度のできる限り早い時期に「こども家庭庁」を創設すると閣議決定されました。「こども」を中心にした支援を国が全力で行うことを宣言したと思うと大変すばらしい決定です。しかし、保育園や児童発達支援などの子育て関係の福祉事業者の私は大変うれしく思う反面、少しだけ心がざわついています。

心がざわつく原因の一つは、こどもに関する政策の縦割りの弊害をなくすために立ち上げられた「こども家庭庁」なのに、その方針に暗雲が立ち込めていることです。日本経済新聞の報道によると、内閣府や厚生労働省はこどもに関する政策をこども家庭庁に移管することを認めていますが、文部科学省は幼稚園行政や学校のいじめ対策については、移管に反発したそうです。

このニュースには、2006年に誕生した「認定こども園」の問題が思い起こされました。1990年代に保育ニーズの高まりにより、幼保一元化が議論されましたが、厚労省と文科省が互いの管轄を譲らず、二つの省庁が関わる形で認定こども園がつくられたことです。

認定こども園に移行した施設に聞くと、運営費の請求がものすごく複雑になったことや、自治体の保育課が、幼稚園の入園の方法や実際どのような運営をしているかなどの情報を把握していないケースが見受けられ、保育課と幼稚園とで混乱が生じているなど、15年経ってもまだまだ円滑に運営されていないのが実情。このような事態がまた再現されるのかと思うと、暗い気持ちになってしまうのです。