この二、三十年に、実に多くのものが日常品から消え去った。企業戦略の立案においては、この現象を「置換」と呼んでいる。製品のライフサイクルを考えるとき、同じ目的をもった他のものに置き換えられる、というのは、重要な意味をもっているからである。われわれの身の回りには常に置換が起こっており、一刻も油断がならない。ジャングルに住む動物にも似た警戒心が必要である。

置換の特徴は、必ずしも取って替わる側と替わられる側がはっきりしていないところであろう。土俵が違う、といってもよい。同じような商品相互の市場占有率の変化には敏感な会社でも、置換の脅威には無頓着な場合もめずらしくない。

旅行カバンにキャスターがついて便利になった。ガラガラと引っ張って歩けばよくなったからである。主要駅やターミナルには、階段に替わってエスカレーターがついた。この二つの現象が赤帽を置換したのである。ひとたび赤帽が少なくなると、もはやこちらも赤帽をあてにしなくなるから、この置換現象は歯止めがきかない。すべての社会的システムが「赤帽なしですむ」ように、加速度的につくりかえられてゆくのである。もう一つ、赤帽の方でも仕事が少なくなるから、単価を上げて収入を確保しようとする。これがまた客離れを加速する。