また適格退職年金は、「元本保証型」と「ハイリスク・ハイリターン型」の運用を選択できるのだが、後者では運用の失敗で資産の1割が失われているのが現状である。定年退職者が同じ年に何人も出てきて退職金を支給しようにも、あてにしていた適格年金がおりず、会社の手持ちの資金で補填したがために、資金繰りが苦しくなって“退職金倒産”の憂き目にあう最悪の事態に陥ることもありえる。

一番の問題は、これら企業年金の損失がオフバランスになっていて、会社の貸借対照表を見てもわからないことだ。上場企業は00年度から「退職給付会計」が導入され、「退職給付引当金」として貸借対照表に反映されるようになった。

しかし、それはあくまでも損失の一部にすぎない。あるシンクタンクの推計によると、08年度の主要上場企業の積み立て不足は約21兆4000億円とされている。

明日のことさえわからなくなった世の中で、10年、20年先の年金を保証するのはもはや困難。そこで01年に「確定給付企業年金」とともに導入されたのが「確定拠出企業年金」だ。これは加入者である社員自身が運用し、その成績で年金額が上下するもの。しかし、金融知識の乏しい人間が行っても失敗するのがオチである。なにより運用を委託する経費が高い。身に覚えのある人もきっと多いはず。

中小企業が業界単位で集まってつくっている厚生年金基金が多くあるが、私は10年以上も前からその解散を主張してきた。だいたい、厚生年金だって維持が危ぶまれているのに、厚生年金基金なんて存続できるわけがないからである。

多くの厚生年金基金は、その後も改革せずにダラダラと続けてきたが、その問題先送りのおかげで、隠れ債務が天文学的になってしまった。そのツケは、これから誰が払うことになるのだろうか。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=伊藤博之)