財政安定同盟に賛成しなかったイギリスの思惑

このようにEU各国の財政危機が深刻化するなか、EU各国のソブリン・リスクを縮小することを目指して、12月8、9日にEU首脳会議がブリュッセルで開催された。EU首脳会議においては、ユーロ圏諸国が中心となって、経済同盟の強化、とりわけ、「財政安定同盟」(Fiscal Stability Union)に向けた動きに基本合意がなされた。

ただし、この基本合意に他のEU諸国も賛同する形を取ったが、イギリスは財政主権の維持にこだわり、この基本合意には賛成しなかった。そのため、イギリスは自国の利益を慮ってEU首脳会議における意思決定に対して足並みを崩したとして批判を受けている。

その内容は、財政規律を強化するための新しい財政ルールを含む財政協定(Fiscal Compact)をつくることに基本合意した。財政ルールは、一般政府予算を均衡させなければならないというものである。

ただし、マーストリヒト条約で規定されている経済収斂条件の一つである財政赤字の対GDP比を3%以内とするというものではなく、景気悪化のために税収の減少や失業手当の増大によって悪化する財政収支を考慮に入れるために、景気変動に影響を受ける循環的赤字を除いた、構造的赤字についてGDPの0・5%を超えてはいけないとしている。また、この財政ルールを、各国の憲法あるいはそれに相当する法律で規定することも盛り込まれている。

すでに安定成長協定によって、財政規律の遵守を求めて、過剰財政赤字手続きの実質的な適用を図ることになっていた。実際にはギリシャを含めていくつかの国がその適用の対象となったが、一度も発動されたことがなかった。

裁量の余地があったことから、発動しないという裁量が働いたために、一度もその発動がなされなかったという反省から、新しい財政ルールでは、欧州委員会によってある国の財政赤字の上限超過を認められたならば即時に、ユーロ圏諸国の反対がないかぎり、自動的に過剰財政赤字手続きが適用されるよう、自動修正メカニズムを導入することにもなっている。このようにして実質的な財政規律の強化を図ろうとしている。