成果主義の根本は適材適所の考え方

いくら経営者が戦略を掲げても、現場の人間がそれを理解して動かなければ、組織を変えることはできません。

それゆえ、マクドナルドでは、クルーをまとめリーダーシップを発揮する各店舗のマネジャーの育成が、非常に重要な経営課題になります。

私が導入した「セールス・インセンティブ・プログラム」もその一環です。いわゆる成果主義ですが、根本にあるのは、能力がある人には、それをできるだけ伸ばせる環境を用意するという適材適所の考え方であって、いたずらに競争をあおるのが目的ではありません。また、上の人が成長に伴ってステップアップしていけば、そのポジションが空くので下の人の成長機会も増えます。伸びていく組織には、この人材育成のパイプラインが不可欠なのです。

それから、マクドナルドにはハンバーガー大学があります。よく「ハンバーガーのつくり方を教えているのですか」とか聞かれますが、そうではありません。ハンバーガー大学でやっていること、それはアメリカ国籍のグローバル企業にふさわしい人材の育成です。

まず国内での成功を目指し、それが達成できてから海外展開を図ろうとする日本企業と違って、マクドナルドでは最初から世界市場を想定して戦略を考え、次に、自分たちの活動する地域で最も機能する方法に落とし込んでいくという順序で考えます。ハンバーガー大学の教育プログラムというのは、この「Think global, act local」という会社の基本的な考え方ができる人材を育てるためにつくられているのです。また、年間100人の社員を6カ月単位で海外研修へ出していますが、目的は同じといっていいでしょう。

国際的な広い視野をもち、世界という市場を見据えて発想し、行動できる。マクドナルドならずとも、これから活躍が期待できるのは間違いなくこういうタイプのビジネスパーソンです。

私がCEOに就任して以来、フランチャイズを含めた全店売上高は7年連続増収、うち5年連続過去最高を記録するなど、マクドナルドは右肩上がりを維持しています。といっても業績低迷に歯止めをかけ、業績を向上させたのは、もちろん私ひとりの力ではありません。いってみればこの会社にはそれだけの底力がもともとあったのであって、私はそれを引き出しただけです。

そして、私にはもうひとつやるべきことが残っています。それは、後継者を育てることです。今の経営者が去ったらどうなるかわからないような企業には、誰も価値を感じないでしょう。言葉を換えれば、後継者を育てられないリーダーは、どんなに好業績を挙げようとも、リーダー失格なのです。マクドナルドでは、店長の査定でも人材育成を大きく評価します。

そう思って見てみると、マイクロソフトもヤフーもグーグルも、米国のグローバル企業はみな経営者のバトンタッチがうまくいっている。業績を伸ばすだけでなく、同時に後継者の育成もきちんとやっていたのは明らかです。

私は自分と同じタイプの人間を後継者には考えていません。あくまで私は変革のリーダー。次にこの会社が必要としているのは、成長と繁栄のために辣腕をふるうリーダーだからです。

※すべて雑誌掲載当時

日本マクドナルドHD会長兼社長兼CEO 原田泳幸 
1948年、長崎県生まれ。県立佐世保南高校卒。東海大学工学部卒業。日本NCR、横河ヒューレット・パッカードなどを経て、97年、アップルコンピュータジャパン社長就任。米本社副社長兼務。2004年3月、日本マクドナルドHD副会長兼CEO就任。05年3月より現職。
(山口雅之=構成 的野弘路=撮影)