11億円をかけて「公開捜査」に乗り出した

バイデン米政権がサイバー犯罪との戦いを強化し、「ランサムウエア」と呼ばれるコンピューターウイルスを駆使するロシア系ハッカー集団の摘発協力に最高11億円の懸賞金を支払うと発表した。米政府とハッカー集団の攻防が広がる。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とジョー・バイデン米大統領
写真=AFP/時事通信フォト
2021年6月16日、ジュネーブの「ヴィラ・ラ・グランジュ」でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談するジョー・バイデン米大統領(左)。(Photo by DENIS BALIBOUSE/POOL)

米国のスパイ組織トップ、バーンズ中央情報局(CIA)長官が11月2~3日の両日、ロシアを訪れ、パトルシェフ安全保障会議書記らと会談したほか、プーチン大統領とも電話会談を行った。

CIA長官が潜在的敵国を訪れるのは異例だが、駐露大使を務めたバーンズ長官は米政府きってのロシア通。今回はバイデン大統領の要請で訪露しており、重要任務があったようだ。詳しい内容は公表されていないが、サイバー問題が中心議題の一つだったことが確認されている。

米国務省が11月4日、ロシアに拠点を置くハッカー集団「ダークサイド」の首謀者の身元や居場所の特定に関する情報に対して最大1000万ドル(1ドル=約114円)、逮捕につながる情報に500万ドルの懸賞金を出すと発表したのは、CIA長官の訪露直後だった。

どうやら、米側が求めたハッカー集団の情報提供をロシアが拒否したため、米国は「公開捜査」に乗り出したようだ。

米国企業を標的に100億円超を荒稼ぎ

ダークサイドは、コンピューターのシステムを乗っ取って「身代金」を要求するウイルス「ランサムウエア」を使い、西側の企業・組織から金を巻き上げる新手のハッカー集団。今年5月、米パイプライン大手「コロニアル・パイプライン」に攻撃を仕掛け、パソコンがロックされてパイプラインが5日間操業停止となり、米東海岸の社会経済に大打撃を与えた。

ダークサイドは2020年夏に存在が確認され、米IT企業の推計では、これまでに企業側が支払った身代金の被害額は9000万ドル(約103億円)以上。後に回収されたケースもあるが、被害は米国の製造業、IT企業が圧倒的に多い。日本企業では、東芝子会社などが狙われた。

ダークサイドはパイプライン停止後、「大惨事を起こすつもりはなかった。政治目的ではない」という声明を出して謝罪し、活動停止を表明した。しかし、ハッカー集団は失踪したり、出現したり変幻自在。米側が懸賞金をかけたことは、活動を再開させた可能性がある。