堆肥も手作り。

大学OBの伝手で今の畑を借りられたことから、09年より「トコトコ農園」として会員を募集、今では20名近くが火曜日と土曜日の午前中に畑仕事にいそしんでいる。入園料は年間3万円(ほかに入会金3000円、年会費1000円)。

09年まで会社社長を務めていた小暮年男(69歳)は、堆肥まきの手を休めて、こう話した。

「農業は生まれて初めて。一度、自分で作ったものを自分で食べたかった。仕事のときは数字に追われていたが、ここでは自分のことだけでなく、人の気持ちにも目が向けられるようになりました」

IT企業に勤めるKさん(48歳)は「ここは非日常の世界。ドロンコ遊びは楽しい」と目を輝かした。

「美味しい野菜が食べたい」と夫婦で参加しているAさん(53歳)は、「スーパーで売っている野菜とか食べられないくらい」と満足げな表情を浮かべた。

収穫の喜びに思わず笑顔がこぼれる。

トコトコ農園に集う人たちは、ほとんどが近郊に住んでいる。今ある住まいのまま、農的な生活を楽しんでいるのだ。その意味では、「プチ田舎暮らし」を実現させた人たちである。

「トコトコの特徴は、協同で作業して、収穫物も均等に分けることです。一般の体験農園だと、個人個人が自分の区画を持つから、どうしても隣の人の畑と自分のを比べて競争したくなる。サラリーマンの悲しい性なんでしょうかね」

神山は最初から、「みんなで作業して、みんなで分かち合う」ことに決めていたという。作業に来られない人が出た場合には、ほかの人がカバーするのだ。09年は40種類くらいの野菜を作った。「トマトなんか、苗を180本も植えたら、とても食べきれないくらいできた。夏の間は、トマトばかり食べていた」という話は、何人もの会員から聞いた。

10年3月から5月にかけて、このトコトコ農園で、面白い試みがなされる。「婚活」である。埼玉県と協力して、トコトコ農園で農作業をやりながら「合コン」をするのだ。

ここでカップルが誕生すれば、きっと「田舎への移住」に抵抗のない家族になるのではないか、と羨ましく思った。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)