第3はエグゼキュート(遂行)する統率・実行の能力で、人の気持ちをよくわかり、多くの人たちの心を掌握する能力です。そのために必要なことは論語にもある通り、「吾れ日に吾が身を三省す。人の為に謀りて忠ならざるか、朋友と交わるに信ならざるか、習わざるを伝えしか」ということでしょう。「人の為に謀りて」、つまり人のために何かをしてあげるときに、忠、つまり真心をこめてやったかどうか。友達と付き合う際に、信頼を裏切ることなく、常に誠実に対応したのかどうかでしょう。孔子は人心を掌握するには真心や思いやり、誠実さが必要であると教えているわけです。自分のために会社を利用しようとか、自分の立場をよくしようなどと考えている人は、人事の面から見れば低い評価を与えるべきです。

ところで人の気持ちを掌握する方法は1つではありません。例えば真心や誠意、思いやりがあって、人々から信頼を得る人の中には愛想のいい人もいれば、人の輪に入らず超然としている人もいます。人がついてくる大きな理由は、この人についていけば必ず戦いに勝てるという信頼感なんです。例えば、「ナポレオンについていけば絶対に戦いに勝てる」という厚い信頼は、ナポレオンが何回も生死の境を越えて兵士たちと勝利を共有する成功体験があったからです。企業活動は生き死にまでいかないとはいえ統率力には、そうした人間学が根源にあります。

これまで話した「企画・立案」「着想・方向性決定」「統率・実行」の3つの能力は、誰にでも少しずつは備わっているものですが、得意な分野は人によって異なっており、会社の人事構成を考えるときに、オールマイティの人がいると思うのは間違いです。ですから、会社を1人の人間の型にはめてはいけません。複数の人たちが補い合う体制をつくり、各人の一番いいところをうまく組み合わせて仕事をさせ、信頼関係をつくり上げることが大事です。人事はそのための道具で、臆病で、慎重であるべきだし、決して自分の趣味に合わせた人事をやってはいけません。

この3つの中でリーダーシップの根幹をなすのはクリエーティブ能力です。ところが日本の多くの企業人や役人には、課題や目標を与えられたときの企画・立案能力や統率・実行能力は非常に高いけれども、前人未到の原野をどう進むべきかを決める能力を持った人はほとんどいません。私は、自分で戦いのルールを決める能力に優れたリーダーをいかにつくり出すかが、リーダー育成の要件だと考えています。