日清食品ではブランドマネージャー制を採っており、約30のブランドが9人のブランドマネージャーによって管理されている。彼らの仕事は、年間200~300に上る新アイテムを開発することと、既存ブランドをより強化すること、さらには弱体化したブランドを立て直すことなどがメーンである。

同社内には、「社内にコカ・コーラとペプシコーラがあればいい」「社内で勝てないものは当然社外でも勝てるわけがない」と荒々しく表現される独特の風土があり、各ブランド間で苛烈なバトルが繰り広げられている。このような環境下で、チキンラーメン・ブランドを担当する森氏は、社内、社外で展開する競争に打ち勝つための切り札として、愛菜ちゃんに白羽の矢を立てたのだ。

しかし意外なことに、彼女をCMキャラクターに選出するにあたって少なからぬ葛藤があったという。というのは、それ以前のCMキャラクターは、大女優の仲間由紀恵と人気グループTOKIOの国分太一があたっていたからである。そして、ここ10年間の業績も、CM評価も申し分なかったからだ。このような2人を切って、わずか7歳の少女一人にすべてをゆだねるというのは、非常に勇気のいる決断だったのである。

しかし、勇断はなされた。そこには大いなる展望があったからだ。チキンラーメンは1958年発売以来、すでに53年続いている超ロングセラー商品だ。だが、森氏は今後50年を展望しており、新しいテーマをもって商品鮮度の維持を図ろうと考えていた。

この商品は、驚くほどターゲットが広く、子供、若者、主婦、そしてシルバーという4世代にわたっている。この4世代に共時的に購入してもらうことはもちろん重要な課題だが、次の世代に連綿と購買を引き継いでいくこともそれに劣らず重要な課題なのだ。それゆえ常に、商品イメージをリニューアルしながら新しい顧客を創造していくことが必要なのである。

このような役割を全うしてくれる人材として、最終的に同社は芦田愛菜ちゃんを選出した。それは、彼女が4世代すべての人々に愛されているという稀有な特性と、次の世代に受け継いでくれる強い可能性を秘めていたからである。

実際、CM効果は絶大であった。彼女の出演したCMは、2011年8月にわずか約1000GRP(※)程度の広告出稿量で、CM総合研究所の発表する「CM好感度ランキング」の4位となった。そして翌月には、ほんの500GRPの出稿しか行わなかったにもかかわらず、なんとランキング2位まで上りつめたのである。

この数字が端的に示すように、その光り輝くような存在感で多くの人々を魅了する愛菜ちゃん。この少女は、長引く不況、大震災で疲弊する現下の日本に、癒やしと元気をもたらしてくれる「救世主」として、貴重な役割を担ってくれているといえるだろう。

※GRP(Gross Rating Point)出稿量と視聴率を基にしたテレビCMの指標。広告主がテレビにCMを出稿したとき、そのCMが放送された時点の毎分視聴率を足しあげた合計値がそのCMのGRPとなる。たとえば、世帯視聴率が15%の枠に10本、10%の枠に20本、5%の枠に30本出稿した場合、GRPの値は(150+200+150=)500となる。