性格テストは自分を知る第一歩

世の中には、なかなか変われない人とサッと変われる人がいる。そして変われない人が前例を踏襲しやすい。実はこのようにタイプが分かれるメカニズム自体は、脳科学的にはまだはっきりと解明されていない。「ドーパミン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。おもしろいことを実行しようとすると、快感というご褒美を与えてくれる神経伝達物質である。これが大脳皮質から出ると新しいことに挑みたくなるという流れは、ある程度わかっているが、何をどうすればそのような種類のドーパミンが出てくるのかはわかっていない。その仕組みは謎に包まれているのである。

しかし、メカニズムはともかくとして、変われない人と変われる人の違いが性格に起因していることは確かである。人間の性格には生まれつき決まっているものと学習によって獲得するものがあるといわれている。変われるタイプと変われないタイプの違いは、このうちの先天的な性格が主に関係している。なかでも新しもの好きの「新奇性探究性格」が強いか、それとも保守的で慎重な「損害回避性格」が強いかが大きく関わっているのだ。

どちらも先天的、遺伝的な性格で、大人になっても簡単には消えない。自分がどちらの性格なのかを知る手段として、「クロニンジャーの性格テスト」(図)がある。

自分のタイプがわかっていなければ、何をどう努力すればいいのかさっぱり見当がつかないが、自分のタイプさえわかっていれば、先天的な性格は消えないとしても、自分の行動を意識的に変えることができる。

その意味で性格テストは自分を知る第一歩だ。ただ、意外に忘れやすいのが他者による評価である。自分では慎重なタイプだと思っていても、他人からは軽率と評価されていることもある。その場合、他者評価のほうが大事だ。それが社会の評価なのだ。自己評価と他者評価に落差がある人ほど、自分のことがわかっていないのである。

“前例踏襲病”は、生まれつき新奇性探究性格が弱く、損害回避性格が強い性格の人が陥りやすいと考えられる。

ただし、自分が損害回避性格と判明したからといってがっかりする必要はない。字面だけ見ると、新奇性探究性格よりも損害回避性格のほうが劣っているかのように感じるかもしれないが、そんなことはない。

新奇性探究性格も損害回避性格も、それぞれに長所と短所がある点は理解しておきたい。例えば、新奇性探究性格は積極的に物事を探究するポジティブな面もあるが、無鉄砲で、慎重さに欠け、衝動的で気が変わりやすく、注意散漫な面もある。浪費や、秩序を守らなくてもいいと考える点も新奇性探究性格の特徴だ。

一方、損害回避性格は変化に消極的で人見知りするが、堅実で気が長く、家庭的。何かに挑むときは、じっくり考えて、石橋を叩いて渡る慎重さもある。

ちなみに東大生を対象に性格テストを実施したことがあるが、新奇性探究性格と損害回避性格の分布は一般の人々と変わりなかった。ほぼ半々で、民族間の差も基本的にない。

どちらの性格であっても、状況に合わせて短所に注意しながら長所を生かし、いいところを伸ばせばいいのだ。