「番組をつくることができるのは、熱い血の通った人間だけだ。だから誇りを持って仕事をしてほしい。ただし、誇りを持つことと威張ることは違う。誇りは高く、姿勢は低く、謙虚にな」

そういった話をしています。

NHKに入ってから早くも2年になります。「改革を山登りにたとえると何合目くらいになりますか」という質問を受けるようになりました。しかし山を登っている人には頂上は見えません。登山者はいま、自分が何合目にいるかわからない。それが見えるのは、山頂から見ているお客さまです。

「あいつは3合目まで来たな。まだまだ頂上は遠いぞ」、あるいは「もう8合目まで来たか」。そういうことが言えるのは、山頂に立ってひたすら麓のほうを見ている視聴者です。

一方、登山している当事者は足元を見ながら、一歩一歩、頂上に向かって歩いていくしかないのです。

それどころか、改革に頂上はないのかもしれません。お客さまというのは決して満足しません。一つ満足すると、その次はその満足が不満足になっていくからです。

私自身、視聴者満足とは、視聴者の不満足を一つひとつ消していくエンドレスな仕事なんだということを、肝に銘じながら経営に当たっているのです。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 的野弘路=撮影)