かくいう私も、もともと働くことが好きではありませんでした。就職もけっしてうまくいったとはいえません。しかし、苦しい状況を乗り越えてこそ成功があった。この経験は私に、仕事のなかに喜びを見いだすことの重要性を教えてくれました。実験をして思い通りの測定データが出たりすると、うれしくてたまりません。跳び上がっては喜んでいたものです。

充実した人生を送るには、好きな仕事をするか、仕事を好きになるかのどちらかしかありません。けれど、好きな仕事を自分の仕事にできる人は何千、何万人に1人といっていいでしょう。それなら、与えられた仕事を好きになるしかない。そのためには無我夢中で目の前の課題に取り組み、結果を出すことです。

仕事の行き詰まりを克服しようと必死になっていたとき、天啓のようなひらめきを感じたことがあります。セラミックスの成形方法の研究に打ち込んでいたときもそうでした。それまで、セラミックスの粉末を固めるために使っていた粘土を、あるときワックスに替えようと思いついたのです。すると、効率的に成形できるようになりました。

仕事を進める際に大事なことの1つが「創意工夫」です。本当に一生懸命考えれば、おのずとそれが生まれる。日々、ボヤッとしていたのでは、何も生まれないし、仕事も苦痛でしかない。かえって自分の心を痛めつけ、人生を暗いものにしてしまいます。けれども、逆境も成長の肥やしととらえれば、後々の成長にプラスになるのです。必ず「あのときの苦労が……」と、笑って振り返られるようになります。

仕事に必要なもう1つの要素。それは「継続」です。1つのことをやり続けることで、人生を素晴らしいものに変えていくことができます。人生はつまるところ、一瞬一瞬の積み重ねにほかなりません。いまこの1秒の集積が1日となり、1週間、1カ月、1年、そして一生となっていくからです。

人が驚くような大きな成果、どんな天才が成し遂げたのだろうと思われる偉業も、じつは普通の人がコツコツと積み上げた仕事の結果であることがほとんどではないでしょうか。日々継続することによって、とうてい手が届かないと思えていた地点まで到達することができるだけでなく、人間として大きく成長することができます。ですから私は、継続というのは、人生を豊かにする秘訣だと言っています。

※すべて雑誌掲載当時

(岡村繁雄=構成 奥村 森=撮影)