今回の震災で、最も大きな被害を受けた産業は漁業だと私は考えている。亡くなった方の9割以上が津波による水死であり、津波で浸水した面積は約561平方キロ(国土地理院調べ)。単純計算で海岸線が幅1キロ、約500キロにわたって被害を受けたことになる。ここにある産業といえば、漁業・水産業。自動車や電子部品ではないだろう。

復興に際しては、まず資金を「何に使うのか」をきちんと議論しなければ始まらない。なのに、資金を「どう調達するか」という話ばかりが先行して、国民は増税を認めるか認めないかという“踏み絵”を強いられている。私なりに試算したところ、震災による被害総額のうち、50%が漁業・水産業。その復旧・復興を議論することなしに、震災からの復興について語ることなどできまい。かつての郵政民営化と同じくらい漁業について議論されてもいい。人々の関心を集めることの少ない分野とはいえ、知識のないまま国民が蚊帳の外にいていいわけがない。何も知らなければ騙されるだけだ。

それにはまず、漁業について学ぶ必要がある。足元でどういうダメージを受けたのかに加えて、もともとどんな構造的な問題を抱えていたのかを知らなければならない。震災後に上梓された本書は、この両方を網羅してコンパクトにまとめてある。漁業・水産業を学び、復興を考える一助になるだろう。扱いの難しい放射能汚染についてもしっかり触れている。

日本の漁業・水産業の就業人口は約20万人。年1万人ずつ減少中だ。予算はもともと公共事業偏重で、港を埋め立てるような無意味なことにばかり回されている。しかも、もっと水産業そのものの生産性が上がるような使い方をすべきだ、といった問題意識を一部の人しか持っていない。

2007年に内閣府の規制改革会議に取り上げられ、漁業権の開放や漁獲割り当て、海外の優れた制度によって再生を図ろうという議論が盛り上がった時期もあったが、政権交代もあって、規制改革会議も活動停止状態となっていた。

震災を機に議論は再開されたが、水産特区構想のような具体策が出ると、すぐに全漁連などから「現場が混乱する」といった反対論が出てくる。特区の導入で何がどう変わるのかを説明する人もいないし、ちゃんとした報道も皆無だ。新規参入しようとしても、とても一筋縄ではいかない。

しかし、日本の漁業は実は世界一になる潜在力を秘めている。本書に詳しいが、ノルウェー、アイスランドでは漁業は成長産業。高収入で若い就業者も多い。世界で3番目に長い海岸線を持ち、海洋資源の豊富な日本も、やりようはいくらでもあるはず。震災を奇禍に、漁業をつくり直すべきだ。そのための議論の入り口として、本書を手にしてみてはいかがだろうか。