<strong>三菱重工社長 大宮英明</strong>●1946年、長野県生まれ。69年、東京大学工学部航空工学科卒。航空宇宙事業本部で航空機の開発・設計に長くかかわる。2002年、冷熱(空調機)事業本部に転じ、同部門の黒字化などの実績を残す。常務、副社長を経て、08年より現職。
三菱重工社長 大宮英明●1946年、長野県生まれ。69年、東京大学工学部航空工学科卒。航空宇宙事業本部で航空機の開発・設計に長くかかわる。2002年、冷熱(空調機)事業本部に転じ、同部門の黒字化などの実績を残す。常務、副社長を経て、08年より現職。

ものづくりに要する時間を短縮する一方で、情報を伝達・共有する「情報流通」には意識的に時間を投じます。毎日、5分でも10分でもいい。顔を合わせて情報交換する。紙の資料は不要。口頭のほうが短時間で的確に伝わります。ITツールが発達しても、ダイレクトなコミュニケーションにまさるものはありません。

それは私が航空機設計という2000人規模の仕事に長く携わったことによるのでしょう。設計は日々進捗するため、どこがどう変わったか、常に伝わっていないとずれが拡大していきます。そのため航空機技術部長時代は毎朝、モーニングミーティングは欠かせませんでした。冷熱事業本部でも毎日始業15分前に部長級を集めて、立ったままミーティングを行い、社長に就任後も毎週、常務クラス以上が顔を合わすモーニングミーティングを続けています。各地の事業所へも出向き、部長たちとタウンミーティングと称して情報交換に時間を割きます。

情報流通の場がなぜ、重要かといえば、情報が共有されることで、互いに思考のベクトルが合うようになるからです。すると、それぞれがディシジョンメーキングするとき、関係者が集まってすり合わせをしなくても、即決断できるようになり、経営のスピードが速まります。

大宮社長のある日
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大宮社長のある日

こうした思考のベクトルを合わせるための時間は惜しみません。意思決定機関である経営会議も事前審議なしで集まり、朝から3時間以上、ワイガヤで闊達に意見を出し合います。MRJや原子力発電プラントのような大型案件を社としてバックアップしていくには全部門の理解が必要で、それにはそのプロジェクトにどんなメリットとリスクがあり、なぜやるべきなのかという意味合いを共有することが何より大切なのです。

この経営会議の内容は議事録にして、各地の事業所長にも回します。議事録というと、個条書きで簡潔に整理されたものがよくありますが、字面を見ても議論の経過はわかりません。誰がどんな発言をし、それに対して誰がどう答え、どんな議論を重ねて結論に至ったのか、しっかり書きとめて伝える。それを読めば、出席していなくても、議論が揉めたのかどうか、どんな考え方で集約されていったのか、手に取るようにわかります。本社と事業所は離れていても、この情報を共有することで、思考のベクトルが揃い、事業所でのディシジョンメーキングも迅速に行われるようになるのです。

経営改革とは、組織に定着した時間の概念を根底から変える「文化革命」ともいえます。習慣を変え、仕組みを変える。容易でないのも事実です。ただ世の中、「15%ルール」といって、普及率が15%を超えると急速に広まる法則があります。今はそのラインを超えつつある。全社で“天使のサイクル”が回り始めるころには、抜群の燃費性能を誇るMRJが世界の空を飛んでいることでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

(勝見 明=構成 芳地博之=撮影)
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