垂直統合をとったフォードとジョブズ

一人のカリスマが強いのは、イノベーションが人々のこれまでの常識の延長上にない場合である。フォードが庶民の乗り物としての乗用車を開発するまでは、自動車は金持ちのおもちゃとしか考えられなかった。ジョブズがウォズニアックとともにアップルIを開発するまでは、マイコンは科学者のものであり、一般の人々でマイコンに関心を持つのは「おたく」だけと多くの人々が考えていた。

2人のイノベーションは常識を超えていたのである。このようなイノベーションは大きな組織では実行できない。これにたいして大きな組織が得意なイノベーションは、多くの人々が協働して仕事に取り組まなければならないようなイノベーションである。その典型はNASAの宇宙開発プロジェクトである。

日本の企業は過去の延長軌道の上でインクリメンタルなイノベーションを起こすのは得意だが、非連続的なイノベーションを起こすのは苦手である。これは日本だけでなく、欧米をも含めた大きな組織一般についてもいえることである。

大きな組織でも非連続なイノベーションを起こすことはある。一つは、カリスマ的なリーダーが出てくるときだが、大きな組織でそのようなリーダーが内部から自生的に生み出されることは少ない。

そのようなリーダーがいない場合でも非連続なイノベーションが起こることはある。そのメカニズムを私は、「一点突破全面展開」と呼んでいる。単純にいえば、まず組織の縁辺部において小さなスケールでイノベーションを起こし、その成功を梃子にさらなるイノベーションを誘発し、企業の常識に非連続な変化をもたらすという方法である。

シャープの薄型電卓、キヤノンの電子制御カメラはこのようにして開発され、会社全体ならびに社会の常識に非連続な変化を起こすイノベーションがもたらされた。