【メリハリ化】心身の切り替えはできているか

●野口さんからのアドバイス

私は普段、仕事の優先順位を意識することはほとんどありません。目標に向かって必要なことだけをやるようにしているので、それに合致しないものにはそもそも手をつけないのです。

とはいえ、人から頼まれた仕事は別です。とくに若いころは無駄に思える仕事も積極的に引き受けていました。いっけん無駄でも、実際にやってみると自分の幅を広げてくれることが多いからです。

実は社長になったいまでも、ときどきそういうことがあります。いま私は日本玩具協会の安全環境委員会で委員長を務めています。専門知識がかなり必要な仕事であることから、正直なところ最初は気が進みませんでした。ところがちょうどそのころ、海外で鉛入り玩具が問題になり、あるメーカーの会長が記者会見で答弁をしていました。それを見て、トップがこうした問題に鈍感ではいけないと思い、前向きに委員長の仕事に取り組むようになりました。幸い、いまは委員長の仕事を引き受けたことで、専門知識が身につき、非常に役に立っています。もしあのまま無駄な仕事だと考えて敬遠していたら、必要な知識を得るチャンスも逃していたでしょう。

若いころからこのような経験を何度もしているので、基本的に向こうからやってくる仕事の中に無駄なものはないと考えています。何でも引き受けていると大量の仕事を抱えることになりますが、結果的にそれが仕事のスピードを上げることにつながりました。仕事自体を断るのではなく、仕事の中に潜む無駄を省きつつ短期集中で次々に片付けていくスタイルが身についたのです。

仕事の中の無駄をどうやって浮かび上がらせるのか。それにはできるだけ残業しないことが一つの効果的な手法だと思います。私は部長になったころから、家族と過ごす時間を増やすために極力残業をしなくなりました。よく、仕事が早いから残業せずに済んだのかと聞かれますが、実際は逆です。リミットがあるのでポイントに絞って仕事をせざるをえなくなり、仕事の中の無駄がよく見えるようになったのです。

時間がないと思えば集中力も増すものです。社長になってから、私は社員の子供の誕生日に直筆の誕生日カードを送っているのですが、その数は月平均50通です。私はスキマ時間を活用して1日か2日で一気に書き上げています。会議と会議の間の15分でもトップギアで集中できるのは、これが締め切りのある誕生日カードだから。誕生日までに発送できなければ受け取る相手に失礼です。差し迫った状況を自分でつくることで、エンジンをかけているのです。

残業しないことにも、これと同じ効果が期待できます。定時までに片付けなくてはいけないと思えば、否が応でも集中力が高まります。とはいえ、いきなり残業をゼロにするのは難しいかもしれません。ですから最初は無理をせず、残業しない日を段階的に増やしていけばいいと思います。私は土日を含めて週5日、家族と夕食を食べるという目標から始めました。どうしても残業が必要な日は残業して、そのかわりに次の日は早く帰る。こうやって週の中でメリハリをつけると、徐々に残業なしで仕事を片付けるコツがつかめるようになるはずです。

※すべて雑誌掲載当時

HRインスティテュート代表取締役 野口吉昭
横浜国立大学工学部大学院修了。建築設計事務所、コンサルティング会社を経て、1993年HRインスティテュートを設立。『コンサルタントの習慣術』『コンサルタントの「質問力」』など著書多数。

(村上 敬=構成 芳地博之=撮影)