私はよく、「経営はサイエンスだが、アートでもある」と言っています。ロジカルな思考は当然重要なのですが、最終的な判断を決めるのは知見に基づく直観なのです。

09年5月、「am/pm」の買収を最終的に断念したのも、ひとつの直観でした。交渉を進めていくなかで、あるとき、「これはもうダメだ」と思ったのです。これは理屈だけでは説明できません。

優れた経営者は直観力に長けていると感じます。そうした感性やひらめきは、社内では生まれづらい。社外の人に会い、四方八方から刺激を受けて、頭を忙しく回転させなければ磨かれないのです。

社内でも対話を大切にしています。毎年3月と9月に、札幌から福岡まで全国8カ所で「ローソンセミナー」を開いています。オーナー(加盟店主)に新商品を説明するイベントですが、この機会を活かそうと、私が社長になってからは、社長が経営方針を直接伝える「説明会」の時間を設けました。毎回1時間、回数は年間60回程度になります。

また「タウンミーティング」という機会もつくりました。時間は約3時間。私と各地方の支社長が参加して、地域のオーナー十数人と一緒に、経営課題をじっくり話し合います。07年から開始し、3年間で全国を行脚する予定です。

ローソンの経営は「地方分権」です。地方の支社が独自の判断で意思決定を行い、収益に責任を負っています。そのためには一人ひとりに経営方針を理解してもらう必要がある。対話にはコストがかかります。私もしんどい。しかし、地域を熟知する支社がフル稼働すれば、融通の利かない「中央集権」より、よっぽど効率的な組織になるのです。

なにより現場の力を引き出すには、生身のコミュニケーションが欠かせません。テレビ会議のような「ハイテック」は便利ですが、成功の喜びを分かちあう「ハイタッチ」にはかないません。理屈だけでは人は動かない。多忙を理由に社長室に閉じこもっているようでは、組織は動かせないでしょう。

スケジュールの調整は秘書任せです。当初は休日もありましたが、いまはすべて埋めてもらっています。いわゆる「オフ」はほぼありません。誘われれば酒も飲むし、ゴルフもします。ただ一人ではやりません。誰かと一緒に過ごすことで、「こりゃいいぞ!」とひらめく。勉強会も同じです。忙しいのですが、ちっとも苦ではない。どのアポも仕事のエネルギーになる楽しい時間です。

社長には公私の区別はありません。店舗は24時間動いている。私も常に経営のことを考えている。ゆっくりしていれば、「無」になれるわけでもない。いまはまだ修業の時期です。

※すべて雑誌掲載当時

(小山唯史=構成 小原孝博=撮影)