マッキンゼーで学んだ「4つの原理原則」で思考の漏れをなくす

<strong>伊藤良二</strong>●慶應義塾大学工学部卒、シカゴ大学経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、UCC上島珈琲の経営企画、商品開発担当取締役に就任。シュローダー・ベンチャーズ代表取締役、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、日本支社長を経て現職。
伊藤良二●慶應義塾大学工学部卒、シカゴ大学経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、UCC上島珈琲の経営企画、商品開発担当取締役に就任。シュローダー・ベンチャーズ代表取締役、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、日本支社長を経て現職。

1つは「トップマネジメント・アプローチ」。経営者の視点で考えることです。自分の立場からではなく、常に全体観をもって課題の本質を見抜く。誰のために解決すべき課題か、どんな目標を立てるべきか、自分がトップになったつもりで考えてみることです。

2つ目は「プロフェッショナリズム」。これには2つの意味合いがあります。1つは「顧客の利益を最優先に考える」。いまやコンサルティングファームや投資銀行でさえ自社の利益を最大化することに走っている懸念を感じますが、クライアントの利益を最優先に考えるのが真のプロフェッショナルであり、自社利益は後からついてくるという考え方です。

もう1つは「専門性」。自分ならではのバリューをどうやって出してゆくかです。マッキンゼーに入った年、グローバル共通の新人研修に参加しました。研修で“マッキンゼーをつくった男”といわれるマービン・バウアーのセッションがあり、彼から「自分ならではのバリューをどう定義するか」と一人一人聞かれたのです。それを常に意識しろという問いかけなのですが、駆け出しだった私には衝撃的でした。当時ビジネス経験も少なく、会計士の試験に合格したばかりだった私は「財務知識を軸にクライアントの問題点を考えること」としどろもどろに答えた覚えがあります。

3つ目は「ファクトベース」。課題や目標を設定するとき、ありがちなのは情緒や主観に引き摺られてしまうことです。好き嫌いとか頑張るべきとか、そういう感情的な要素はぶれの元凶です。意思を持つことは大事ですが、課題や目標に客観性を持たせるためには、事実に基づいて設定しなければいけません。

4つ目は「ソート(Thought)リーダーシップ」。物事を新しい視点で定義する、考え方を常に進化させるということです。たとえば同じテーマで課題に取り組むとき、過去と同じ時間をかけていては進歩がないので、より効率を上げるにはどうすべきかを考えます。テーマ設定にしても、経験を積んでいるぶん、絞り込み方にせよ掘り下げ方にせよ、もう一段上の取り組みを志向する。課題設定力を磨くコツでもあります。

以上4つの原理原則に照らして考えると、かなり思考洩れの少ない課題設定、目標設定ができます。経験を積まなければ難しいかもしれませんが、こういう方向性で思考する癖をつけることが大切です。

特に意識すべきは、自分ならではのバリューの出しどころはどこかということです。私の場合、どんな企業のコンサルティングでもまず事業環境分析から始めます。私たちコンサルタントはその企業の専門領域に関してはクライアントには及びません。ところがその企業を取り囲む環境の大きな流れを見極めることで、当該企業の舵取りに重要なドライバー(判断軸)が何かがわかってきます。

日常カイゼンのコツ

日常カイゼンのコツ

最も時間と頭脳を使うべきである課題の設定においても、自分なりの切り取り方を早く見つけて、それを積み重ねてゆく。あちこちつまみ食いしていては根無し草になるだけです。課題設定や目標設定のたびに立ち往生してしまうのではないでしょうか。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 小原孝博=撮影)