現在、資生堂のボードは15名で構成されているが、副社長は女性で、監査役にも女性が2名いる。常務取締役には外国人もおり、社外からの取締役も2名で、社外監査役は3名いる。それらを含めたボードの約半数が“資生堂育ちではない人”によって占められている。

ボードのメンバーは性別、国籍だけでなく、専門も多様だ。権威ある科学者や法律の専門家など、それぞれに異なるバックグラウンドを持った人材が集まっている。こうした多様性に富んだメンバーが侃々諤々の議論を戦わせることによって、会議の精度は上がっていく。資生堂の常識だけによる判断ではなく、多様な世界の常識を組み込んだ高次の判断が可能になるのである。

日本人、そして日本企業は、多様性への対応が不得手だと言われる。異質なものを受け入れるのが苦手、と言い換えてもいいだろう。資生堂は現在、世界70カ国に進出し、海外売り上げの比率も高めてグローバル企業として世界に羽ばたこうとしているが、それには異質なものを受け入れていく企業風土が不可欠だ。そうした風土を醸成するには、まず、ボードが多様性に富んでいる必要がある。

「先ず隗より始めよ」である。

もう一つ、資生堂が会議に関して行っている取り組みをご紹介しておきたい。資生堂では世界中の事業所の責任者、各部門の責任者を一堂に集めて、ストラテジーコンファレンス(社長方針発表会)を年に一度開催している。ここでは中長期の経営方針を確認し共有し合うわけだが、会社が現在どのようなビジョンを掲げており、その実現のために今後どのような具体的戦略を取っていくかということは、責任者だけでなく、全社員に周知徹底させなければ意味がない。

会議の録画配布で全社員に“熱”を伝える

そこで、イントラネットに会議で使用したパワーポイントと発言内容を会議の翌日にアップするとともに、会議の模様を撮影したDVDを作成して世界中の各事業所、各部門に配布しているのである。DVDは職種別に必要な内容を編集し、英語バージョンも作成している。

周知徹底には、face to faceの伝達が最も有効であることは言うまでもない。話者の表情を直接目にすることで、決意の固さや話の力点を感覚的に把握することができる。これは、紙ベースの資料では絶対に伝えられないことだ。だからこそDVDを作成して、会議に参加していない社員にも、会議の“熱”が伝わるよう工夫している。

これらの取り組みによって、資生堂の会議のレベルは格段に向上している。レベルの高い会議は社長の私でさえ緊張を強いられるものだが、私自身の成長の糧になるものだと考えている。

(山田清機=構成 市来朋久=撮影)