たとえばノーベル医学・生理学賞をとった利根川進教授は、いつも夜通し実験をしていたそうだ。それを見た同僚は「利根川は毎日休みなしに研究を続けて偉い」などと噂をしていた。しかし、何のことはない。彼は夜中に実験をしていたのは確かだが、実際は昼間に人並み以上にたっぷりと眠っていた。ビジネスマンもノーベル賞級の知価の高いビジネスを目指すのであれば、十分な休養を取ることが大切である。

人間の頭がフル稼働できるのは、極論すれば1日に1時間程度である。日本のトップは進んで休みなく働くが、これでは疲れがたまるほどに頭脳労働が低下していってしまう。

日本では首相ですら満足な休みが取れないのだから、その点では三等国と呼ばれても仕方がないだろう。諸外国を見習って、1年に2~3週間のまとまったバカンスが楽しめるような余裕のある国になってほしいと思う。

皆さんのまわりには、スケジュールで真っ黒に埋まった手帳を自慢するような人間がいるのではないだろうか。しかし、これは「時間管理ができていない」ということを自ら証明しているに等しい。

仕事のオフはオンの残りをかき集めて形成するものではない。本当に「デキる」人間は、休暇の残りで、どうやって仕事を組み立てていくかを考えるものだ。

私は2冊の手帳を持ち歩いている。今年の手帳と去年の手帳を2冊携帯するのだ。去年の手帳も持っていれば、過去のスケジュールを見ながら、重要な案件が入らない時期を予測できる。

しばしば突発的な案件が入ってしまうこともあるが、そのようなときはどうやってその仕事を脇に寄せるかが勝負。ここであっさり休暇を返上しては、長い休みはいつまでたっても取れない。

実際、理系の研究者にはまとまった休暇を楽しむ人間が多いものだ。私の知り合いの教授にも、長期間行方をくらませたりする人間がいる。ただし、消えるのはいつも研究に区切りのついたタイミングなので、誰に迷惑がかかるわけでもない。私もそんな研究者の一人で、どんなに忙しくても休暇はきちんと取る。

幸いなことに私の研究する火山の近くには、必ず温泉がある。仕事を離れ、ゆっくりお湯につかって英気を養っている。

※すべて雑誌掲載当時

(大高志帆(verb)=構成 小原孝博=撮影)