わが国小売業は、半世紀の近代化の中で、いくつかの特徴ある力を備えるに至る。

(1)多数チェーン店舗のマネジメント力。
(2)多頻度小ロット高精度の垂直的システム統合のマネジメント力。
(3)日本社会に欠かすことができない生鮮品の鮮度管理技術。
(4)地域の人々の気持ちに入り込む地域密着マネジメント。
(5)多業態・多サービスを抱え、地域開発に応える全社マネジメント力。

こうした力を背景に、わが国小売業は、世界の小売業と比べても、引けを取るどころか世界の小売業の一つのモデルとなる強い力を持つに至った。

だが、登壇された4氏の小売業への評価や先行きへの期待は必ずしもプラスではなかった。一つには、わが国小売市場が停滞状態にあることと、それだけに海外市場での活躍が期待されるが、海外の小売り大手企業の力が思う以上に強力ということがある。欧米の小売り大手企業は、すでにアジアでもしっかり地盤を築いたし、加えて韓国の二強(ロッテとEマート)、さらには中国企業(売上高1兆円を超える小売企業が数社誕生)もある。日本の小売業が、外地においてこれらの企業に伍して戦っていくのは、確かに容易ではない。

実在論で紐解く「商人の値打ち」

もっとも、この問題、予断を許さないが、だれとどこで戦うのかが見えている分、日本企業の得意とするところでもある。私には何とかなりそうな気がするのだが、どうだろうか。

4氏から上がったもうひとつ問題は、小売業と社会との関係性の問題である。わが国小売業は、これだけの存在感を持ちながら、社会からそれにふさわしい評価や共感が得られているかという問題である。この問題は、敵がはっきりしないだけ第一の問題より深刻に思える。

「フォーチュン」がアメリカで「もっとも働きたい企業100」を毎年発表する。今年のベスト10には、小売企業が3社入っている。100社の中には18社。アメリカでは小売業の人気は高いのだ。

他方、わが国では、どうか。日本経済新聞社2011年就職企業人気ランキングを見ると、上位10社のうち8社が保険や銀行等金融機関。かなり異常なので、3年前を見ると、金融機関が3社、メーカーが4社、サービス系が航空会社1社を含め3社。3年経つと様変わりだ。だが、小売・商業の地位が低いのは変わらない。08年で、75位に伊勢丹が1社入るだけ。

小売りは、大学生には不人気なのだ。身近にいる学生に聞いても、土日に働くのがイヤだという答えが返る。アメリカほど、若者の共感はどうもなさそうだ。