この諸資産から負債と調整額を引くと513億円で“正味財産=持分”となる。これに近い額の買収なら問題はないだろう。しかし、実際は2084億円もの「のれん代」が資産に加えられて“買収上の正味財産”が2597億円へ膨らみ、巨額の支出につながっているのだ。

のれん代とは、相手企業のノウハウやブランド力など、将来に利益を生み出す“源泉”となる無形資産。オリンパスは買収先に2084億円もの見えない価値を認めて買収したわけだ。

もともと正味の財産が500万円の飲食店があったとして、その5倍の2500万円もの価値を認めて買収するとしたら、どうだろうか。のれん代として2000万円もの上乗せをするのだから、隣に駅を建設中で集客が見込めるなど、よほどの理由がなければ無理だ。

監査人が2084億円というのれん代の計上に何の疑問も抱かなかったということはありえないだろう。仮に経営陣に問題点を指摘したのであれば、一体どのような回答を受けて、「適正」となったのか。そもそも、90年代からの巨額の含み損が長年にわたって監査上指摘されなかったことは、問題がなかったといえるのだろうか。

なお、翌09年3月期の決算でも、買収の不自然さが見て取れたように思う。のれん代の償却が前期80億円に対して、なんと12.6倍の1014億円に膨らんでいたのだ。その数字を見たら、のれん代の計上と翌年の償却急増の関係に注目して、監査人は「買収先を高く評価しすぎたのでは」「何か会計処理の問題はないか」などと厳しく経営陣に確認するはずである。

今回の事件は単なる一企業の問題ではない。適正と認めた監査の根拠や過程も厳しく検証する必要がある。米エンロン事件の“日本版”へ発展する可能性も十分にありうる事件なのだ。

確かに会計士には不正通報義務がある。しかし、監査人も監査法人という営利組織の一員であり、不正の芽を見つけても、周囲から潰されることがありうる。そこで新たに内部告発受付の窓口を、日本公認会計士協会なり第三者の公的機関に設けたらどうか。不正事件の再発防止の有効策になるはずだ。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)