「この程度の真相がおわかりにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」

オリンパスに関する報道に接して真っ先に思い浮かんだのが、人気推理小説『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉著)に出てくるこの台詞だった。

1990年代に財テクでいくらの損失が生じ、それをどう隠したかなどに問題の焦点が当たっている。しかし、会計士として最も気になるのは「なぜ監査人が決算を適正と認めたのか」という点だ。

「今回の不正経理は見抜けないほど巧妙だったのか」と問われれば、個人的な印象だが「イエス」と言い切れないところがある。世間の感覚とすれば、「1000億円規模の不正が見抜けずして、一体いくらの規模なら見抜けるのか」という憤りがあっても不思議ではないだろう。

問題となっているジャイラスグループを同社が買収したのは2008年2月。08年3月期の有価証券報告書を見てみよう。

連結キャッシュフロー計算書には、「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」として2322億円(以下、1億円未満は切り捨て)が計上されている。この項目には「注記」があって、そこを見れば明らかに不自然な印象を受ける。

08年3月期に同社はジャイラスグループほか29社の株式を取得。そして注記の内容からは、別図にあるような資産・負債の状況がわかる。諸資産(現金、売掛債権、在庫、設備など) は1272億円で、負債(借入金、仕入債権など)が694億円。それに少数株主の持分などの調整額は65億円だった。