東京大学名誉教授 養老孟司●1937年生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。『唯脳論』『バカの壁』など著書多数。

鳩山由紀夫首相(※雑誌掲載当時)が温暖化ガスの排出量をCO2 (二酸化炭素)換算で2020年までに25%削減するとぶち上げたが、温暖化ガス問題というのは実にうさんくさい。

まず、第一に本気で温暖化ガスの増加を心配するならば、排出を抑制する一番確実な方法は石油の生産調整である。消費を減らせと言っても世界のどこかで誰かが使ってしまえばそれまでだから、現実的には無理だ。石油の生産量を絞れば、その範囲内で使わざるをえないわけだから、確実に温暖化ガスの排出量は減る。しかも、石油の供給はメジャーがおさえているのだから簡単にできるはず。

温暖化ガスが世界的問題というなら、こんな当たり前のことをどうして誰も言わないのか。おかしな話だ。ようするに、世界の誰も本気ではないのだ。

アル・ゴア米国元副大統領は著書の『不都合な真実』で、炭酸ガスを出さないことが倫理であるかのごとく語っているが、政治家が倫理を言い出すときには必ずウラがある。米国と欧州と国連が結託して、世界の世論を喚起して、何かを悪いと決めつけ、漠然とつぶしていく。こうした構図は過去、捕鯨問題やたばこ問題でも繰り返されてきた。日本はいい加減にその現実に気づいたらどうか。

「温暖化ガスの排出量を減らせ」ということは「石油をなるべく使うな」と同義だ。しかし、欧米は簡単に石油の消費量を減らすわけにはいかない。なぜならアメリカ文明とは石油文明だからだ。米国の秩序は石油で維持されている。

それならば、「石油を使うな」というプレッシャーを一番かけられている国はどこか。いま、猛烈に石油を使い始めている中国とインドだ。欧米が両国に圧力をかけているのは明らかだ。欧米としては有限な石油をなるべく長く使いたい。だから「新興国に荒らされてなるものか」というわけだ。