若者が元気に働く会社をつくりたい

個人の働き方もさらに変化するだろう。日本の完全失業率は4.7%(10年7月)と、アメリカやフランスと比較すると半分ほどしかない。しかし失業率は低いほどいいと判断するのは、終身雇用が当たり前だった時代の古い価値観だ。いまや転職が当たり前になり、働き方も多様化していて、誰もが失業の時期を経験してもおかしくない時代だ。ソニーやグーグルに入社したいと思う若者で一生同じ会社にいたいと思う人はおそらくいないだろう。

アメリカは、単純労働は人件費の低い国に奪われ、ITでホワイトカラーの仕事が奪われ、どんどん働く場が減っていったが、おそらく日本もこれと同じ道を歩むだろう。

その代わり、小さな会社がたくさんできて、大企業中心の社会から小規模企業が大半を占める社会へと変貌する可能性もある。そうなれば、さらに働き方は変化し、例えば一人で2つ3つの仕事を持つようになるかもしれない。一方で若い世代には、「世の中に貢献したい」「他人の役に立ちたい」と考える人が増えている。安定的な給料を得ることだけが働く目的でなく、働き甲斐や充実感で仕事を選ぶ。NPO、社会起業家への関心も高まっている。

私自身も、若い人が元気な会社をもっとたくさんつくりたいというのが望みだ。例えば中国企業とコラボレーションしたら、「この会社と組んで本当によかった」と思われるような会社だ。相手に迎合するのでなく、新しい価値観を生みだすという意味だ。過去の歴史に“遺恨”があっても、これから新しい価値を共同でつくるプロジェクトなら必ず協力し合える。そこが中国などのアジアの国々とコラボレーションしていくコツだと私は考えている。

過去の栄華にしがみついていると、高みに立って相手を見下したり、けなしたりしたがるものだ。そうではなく相手のよさを理解しながらも、「これはちょっと危ないな」と思えば、指摘する。

若い人たちがどんどん活躍し、海外の企業とそんなよい関係が築ける会社がもっと増えてほしいというのが私の希望であり、目下の課題だ。

※すべて雑誌掲載当時

(伊田欣司=構成 永井 浩=撮影 AP・ロイター・YOMIURI/AFLO=写真)