3月11日に発生した東日本大震災、原発事故で疲弊しきったかに見える日本。グローバル経済を熟知するソニー元CEOが、いま、日本復活のシナリオを語る。

新しい事業なしに日本の将来はない

<strong>クオンタムリープ代表取締役 出井伸之</strong>●1937年、東京都生まれ。60年早稲田大学政治経済学部卒業後、ソニー入社。スイス留学、フランス駐在、オーディオ事業部長、広告宣伝本部長などを経て、95年社長、99年CEO、2000年会長兼CEOを経て05年退任。06年クオンタムリープを設立し、現職。現在、アクセンチュア、百度、フリービットの社外取締役を兼任し、ソニーアドバイザリーボード議長としても、社内外に提言活動を続ける。
クオンタムリープ代表取締役 出井伸之●1937年、東京都生まれ。60年早稲田大学政治経済学部卒業後、ソニー入社。スイス留学、フランス駐在、オーディオ事業部長、広告宣伝本部長などを経て、95年社長、99年CEO、2000年会長兼CEOを経て05年退任。06年クオンタムリープを設立し、現職。現在、アクセンチュア、百度、フリービットの社外取締役を兼任し、ソニーアドバイザリーボード議長としても、社内外に提言活動を続ける。

東北の復興が急がれる一方、政治の世界は相変わらず対応に手間取っている。この大切な時期に「日本をどのような国にしていくか」という根源的な議論がなされないのはまことに遺憾である。

しかしながら、どれだけ過酷でつらい経験でも、月日とともに忘れてしまえるのも人間である。さもなければいつまでも未来へ向けて歩きだせないわけだが、この半年あまり、忘れ去ってはならないことも数多くあった。

今回の震災で「政府は信頼できない」「企業は頼りにならない」と感じた人は多いに違いない。地震、津波、原発事故と立てつづけに惨事を目の当たりにし、生活の基盤として信頼していた多くのことが脆弱で不確かだと実感されたからだ。その教訓が風化する前に、大転換に着手する必要があると私は考えている。政府や肥大化した官僚組織とは異なる視点で、いまこそ新しい事業を打ち立てなければ日本の将来はない、という危機感だ。

私たちが9月に主催する「アジア・イノベーション・フォーラム2011」では、テーマに「岐路に立つ日本――今こそ次世代のための選択を――」を掲げている。

「岐路に立つ日本」は英語で「Japan at the Brink」と表現したが、平たく言えば「崖っぷちの日本」ということだ。いまの日本は未曾有の危機に瀕していると語られるが、崖っぷちの状況は震災前からすでに迎えていたのである。

自動車や家電は韓国×台湾×中国でいくらでも製造できるし、かつて日本の得意技と呼ばれた分野は周辺国にほぼ奪われた。一方で、日本を含むアジアが一つの巨大なマーケットを形成したことは、日本にとってもプラスに働く。もはや日本企業のアジア進出を「海外流出」と見るような時代ではない。

東日本大震災は多くの犠牲者を出した不幸な出来事だったが、今後の復興活動で過去の姿に戻すだけでは足りない。これは崖っぷちの日本に大転換をもたらす絶好のチャンスだ、と前向きに捉えたい。