仕事は人生のすべてではない

<strong>駐日フランス大使 フィリップ・フォール</strong>●1950年生まれ。外務事務官、民間企業などを経て、2000年駐メキシコ大使。08年より現職。
駐日フランス大使 フィリップ・フォール●1950年生まれ。外務事務官、民間企業などを経て、2000年駐メキシコ大使。08年より現職。

フランスでは、ビジネスマンの75%が8時には家に帰る。パリの場合、通勤に1時間前後かかるから、逆算すれば6時半~7時には、ほとんどのビジネスマンがオフィスを後にしていることになる。

では、日本人に比べてかなり早い時刻に帰宅するフランス人は、家でいったい何をしているのか?

8時になると主要なテレビ局が一斉にニュース番組を放送するので、家族全員で食事をとりながらニュースを見て、一日の出来事について語り合う。これが、フランスの一般家庭の日常風景である。

なぜ、8時前に帰宅することが可能かといえば、フランスのビジネスマンの労働生産性が極めて高いからだ。1時間当たりの労働生産性はアメリカ、ノルウェーに次いで世界第3位。管理職の労働時間は、週48時間である。

むろん、就業時間は仕事に全力を尽くすが、仕事が終わってから、日本人のように同僚と一杯やりつつ会社の将来について意見を戦わせるということはまずない。また、年に少なくとも5週間ある有給休暇を消化しない人もほとんどいない。もしそんな部下の存在に上司が気づいたら、「もっと家族との時間を増やしなさい」とアドバイスするに違いない。

フランス人にとって、仕事は人生のすべてではないのだ。家族とともに生活を楽しむことも、重要な価値のひとつ。1968年の5月革命(反体制運動)の意味は、まさにそこだと私は思っている。