6月20日の緊急事態宣言解除による「人災」ではないか

残念ながら最悪のシナリオを辿っている。日本の新型コロナウイルス対策と東京オリンピックを巡る政府の対応である。

新国立競技場
写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ
東京五輪・パラリンピックを前にした新国立競技場

7月12日に4回目の緊急事態宣言が東京都に出されて以降も、新規感染確認者数の増加は止まらない。オリンピックの開会式まで1週間を切った7月17日の東京の感染者は1410人となり、年明けの第3波以来の規模となった。減少に転じる気配はなく、7月23日の開会式は最悪の感染状況の中で行われることになる。

いったい6月20日の緊急事態宣言解除は何だったのだろうか。あの時点では多くの人たちが再び感染拡大が起きることを懸念、まん延防止等重点措置に「緩める」ことに違和感を抱いていた。それでも政府は解除を決め、専門家もそれを追認した。明らかにその結果が開会式を前にした感染拡大である。政府の政策の失敗の結果だと言っていいだろう。あるいは「人災」と言えるかもしれない。

なぜあの時点で解除に踏み切ったか。病床に余裕があるということを理由にしていたが、感染が終息に向かっているというエビデンス(証拠)はなく、再拡大が懸念された。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は1000人超えを「残念ながら想定内」だと発言しているが、想定内だったのならば、なぜ解除を認めたのか専門家としての姿勢が問われる。

「解除」によって「中止の声」を封じ込めた

多くの国民が、6月20日の解除は、オリンピックを開催するためだったと感じている。6月20日の段階になっても多くの国民が「オリンピックはできるのか」と疑問を感じ、世論調査でも「中止すべき」という声が多数を占めていた。これに対して政府は緊急事態宣言を解除し、定員の50%か5000人の少ない方という観客上限を設けてスポーツやイベントなどを認めることで、オリンピック開催に道を開いた。その段階で菅首相は「無観客」も考えると明言していたので、この解除によって最悪でも無観客開催ができる状態に政府がもって行ったわけだ。つまり、6月20日に解除しなければ、国民の間から「中止」の声が強まっていた可能性があったのを、「解除」によって封じ込めたとみていいだろう。

その段階で菅義偉首相は「賭け」に出ていた。ワクチン接種が進めば、感染者が減り、開会式までに状況が一変するのではないか。まさに「ゲーム・チェンジャー」としてワクチンに賭けたわけだ。自衛隊による大規模接種会場の設置や、企業による職域接種の開始で、ワクチン接種は一気に進むかに見えた。内閣支持率もやや持ち直す気配が見えていた。ところが再びワクチン供給が滞り、自治体では予約を取り消す動きが拡大。再び怨嗟の声に満ちた。ワクチン接種をした高齢者の感染者数が大きく減少、ワクチンへの「賭け」が正しかったことが証明されつつあったタイミングでのつまずきだった。