ロシアのプーチン大統領が飼う秋田犬は、人気犬種ランキングでトップ10入りするほどロシアでの人気が高まっている。5月に公開される日露合作映画『ハチとパルマの物語』にも登場する秋田犬は、なぜロシア人の心をつかむのか。拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授が解説する――。
2016年12月、秋田犬の「ゆめ」を連れて会見に現れたプーチン大統領
写真=クレムリン公式サイトより
2016年12月、秋田犬の「ゆめ」を連れて会見に現れたプーチン大統領

もはや日本以上の人気犬種に

秋田犬はプーチン大統領や女子フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワさんの愛犬として知られるが、ロシアでは飼育数が増え、人気が定着してきたようだ。

今年5月28日にロシア版ハチ公をテーマにした日露合作映画『ハチとパルマの物語』(アレクサンドル・ドモガロフ監督)が公開される。日露間の政治・経済関係は低調ながら、ロシアでは、秋田犬など日本のソフトブランド人気が高い。

2021年5月28日公開の日露共同作品映画『ハチとパルマの物語』
写真=公式サイトより
2021年5月28日公開の日露共同作品映画『ハチとパルマの物語

ロシア人の7割以上の家庭は何らかのペットを飼っているといわれ、世界有数のペット大国だ。個人主義が強く、他人を信頼せず、ペットに逃避するところがあるとされる。

ロシア愛犬家連盟が昨年、子犬の誕生登録数を基に発表した人気犬種ランキングでは、1位はジャーマン・スピッツ、2位はチワワなど小型洋犬が多く、大型犬でトップ10入りしているのは4位のシェパードと秋田犬程度だ。

愛犬家連盟は「日本原産の秋田犬が今回初めてトップ10に入り、人気が高まってきた。その理由は、SNSやインスタグラムで写真が大量に拡散されたことが大きい。柴犬も13位と上昇している」とコメントした。

ちなみに、犬籍登録などを行う団体「ジャパン・ケネルクラブ」が発表した日本国内の昨年の登録犬種ランキングは、①プードル、②チワワ、③ダックスフンドと小型洋犬が大半で、秋田犬は41位だった。日本では住宅事情から大型犬は敬遠され、飼育者の高齢化から、秋田犬の頭数は年々減少している。

ロシアでは、柔道や空手など日本発祥の格闘技も人気で、柔道の愛好家は推定80万人と、日本(推定25万人)より多い。柔道や空手と同様、秋田犬のグローバル化が進む。

ロシアの全愛犬家が感動した「ハチ」の映画

ロシアで無名だった秋田犬が脚光を浴びたのは、2009年に公開されたリチャード・ギア主演のハリウッド映画『HACHI 約束の犬』が契機だったようだ。米東海岸の町で、大学教授が迷子の秋田犬を保護。愛情を受けて育ったハチは毎朝教授を駅に見送り、夕方迎えに行くのが習慣になり、突然の教授の死後も駅で帰りを待ち続けるというストーリーで、1987年の松竹映画『ハチ公物語』のリメイクだった。

ロシアではネットで無料視聴ができ、すべての愛犬家がこの映画を観たといわれる。

日本人はペットにかわいさを求めるが、ロシア人を含むヨーロッパ人は犬に哲学や忠誠心を求めるといわれる。この映画で秋田犬の忠誠心がロシアの愛犬家の琴線に触れた。忠誠心は秋田犬の代名詞なのだ。