21世紀の世界を引っ張っていくのは、「知性」がお金を生み出し、経済構造を変えるという原理かもしれない。

グーグルは、2人の大学院生が書いた、あるサイトの重要性をグラフ構造で解析するという論文を基にして設立された。今話題の「クラウド」も、情報技術に関する「知性」の集積体である。

日本の劣化は、知性の劣化。日本が復活するには、日本人の総合的な「知性」を向上させることが不可欠であろう。

ところで、知性といっても、さまざまな側面がある。何かが得意でも、別の何かは不得意といった「個性」もある。人々の差異を超えた、いわば「地頭のよさ」は、果たしてあるのだろうか?

1904年に発表された論文の中で、イギリスの心理学者スピアマンは、人間のさまざまな能力の間には有意な「相関」があることを示した。すなわち、一つのことに長けている人は、他のことも得意な傾向があるのである。さまざまなことに応用可能な「地頭のよさ」というのは、実際に存在するらしい。

スピアマンの成果は、さまざまな分野に応用可能な「一般知能」や、「知能指数」といった考え方につながっていく。そして、関連するさまざまな研究、データから明らかになっているのは、このような意味での「知性」は、生まれつき決まっているものではなく、ある程度鍛えることができるということである。

脳活動を計測した研究によれば、地頭のよさと関係するのは、前頭葉を含む回路らしい。とりわけ、外側前頭前野、すなわち、前頭葉の側頭部分が、スピアマンが問題にしたような「一般知能」と関連しているのである。

一つの興味深い事実がある。外側前頭前野の地頭のよさと関連する部分は、同じようなジャンルの問題でも、より「難しい問題」を考えているときに活動する。「やさしい問題」を考えているときには、それほどの活動を見せない。

外側前頭前野のさまざまな回路、例えば「背外側前頭前皮質」は、脳の「司令塔」のような役割をしている。脳のいろいろな部分の回路に「今、この問題に取り組め」という指令を出す。難しい問題のほうが、司令塔に求められる役割が大きい。脳の持っているリソースを総動員しなければならないからだ。

地頭の良し悪しは生まれつき決まっているものではなく、鍛える余地あり。(Getty Images=写真)
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地頭の良し悪しは生まれつき決まっているものではなく、鍛える余地あり。(Getty Images=写真)

つまり、地頭のよさを鍛えるためには、やさしい問題ばかりに取り組んでいても、あまり効果がない。問題を目にしたとき、「これはちょっと大変だ」とか、「面倒くさそうだな」というような問題に向き合わなければ、地頭を支える前頭葉の回路を鍛えることはできないのである。

スピアマン以来の研究が示しているように、知性はすべてつながっている。一つの分野において難しい問題に取り組むことが、他の分野での能力向上にもつながり、「一般知能」を上昇させる結果にもなるのだ。

この視点に立つと、日本の課題は明白である。日本は、いつの頃からか、やさしいこと、楽なことばかりを追求する社会になってしまってはいないか。現代社会が直面する問題は、難しいものばかりである。普段から難しい問題に挑戦し、地頭を鍛えておかなければ、解決はとても覚束ない。

あなたは、果たして、日々の仕事や生活の中で難しい問題に取り組んでいるだろうか? 楽をしていると、せっかくの脳の「地頭回路」が働かない。面倒だな、イヤだな、と思った分だけ、前頭葉の一般知能に関わる回路を鍛えることができるのである。