J2水戸ホーリーホックが経営改革を進めている。昨年7月、社長となった小島耕氏がまず手を付けたのは「無料チケットの配布をやめること」。チケット配布をやめれば、客席はガラガラになってしまう。だが小島社長は「そのかわり雰囲気が一変し、有料入場者数は増えた」という。経営改革の舞台裏を小島社長に聞いた——。(後編/全2回)
水戸ホーリーホックサポーター。2020年10月4日、岡山戦での様子。
写真=MITOHOLLYHOCK
水戸ホーリーホックサポーター。2020年10月4日、岡山戦での様子。

「無料招待チケットの配布をかぎりなく少なくする」

前編から続く

——これまでの経営にはどんな問題点があったのですか?

前任の沼田(邦郎)が社長に着任したのが、2008年。リーマンショックでスポンサー企業が離れ、経営難に陥っていました。その3年後には東日本大震災が起き、ホームスタジアムを使えない時期が続きました。

そのときはクラブを存続させて、ホームタウンに暮らす人たちに水戸ホーリーホックの存在を知ってもらうことが優先でした。経営改革やトップチームの強化といった活動は満足にできませんでした。

私がクラブの経営にかかわるようになって、最初にやった経営改革は「無料招待チケットの配布をかぎりなく少なくする」でした。

入場者数は減ったが、スタジアムの雰囲気が変わった

おかげさまでホームタウンでは私もそこそこ皆さんに顔が知られています。駅前のカフェにいると「応援しているよ」と地元の人からよく声をかけられます。そこで私から「スタジアムで試合を見た経験はありますか」と聞くと、多くの答えは「6年前に一度」「3年前に行ったかな」。水戸の人たちにとって「応援している」は「なんとなく知っている」と同義語になのです。

水戸ホーリーホックの小島耕社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
水戸ホーリーホックの小島耕社長

これを変えるには、「応援」とは「ホーリーホックにお金を使うこと」だと理解してもらわなければいけません。だから真っ先に戦略的でない無料招待チケットの配布をやめました。

すると今度は「最近、タダ券配ってないね。昔はスポンサーさんのお店のレジに置いてあったのに」と話かけられるようになりました。心苦しいのですが、人は一度無料で利用したコンテンツには「タダで当然」と思ってしまいます。それでは本当の応援にはならないのです。有料入場者数を増やしていくためには、無料招待チケットの配布をできる限りやめるべきだと決断しました。

——そうすると、入場者数が減ってしまいますよね。

実際に減りました。そのかわりスタジアムの雰囲気が変わりました。