為替介入しないという、福井俊彦前総裁以来の日銀のポリシーは正しく、私は大賛成である。為替の動向はなるようにしかならない。マーケットの自然な流れに委ねるべきで、無理にドルを買い漁っても実効性はほとんどない。為替介入しなければ、無駄なドルを溜め込まないで済むのだ。

外貨準備高は投機筋などに狙われたときに十分な防衛ができればいいのであって、その額1兆ドルもあればお釣りがくる。現状の日本の外貨準備高の水準からすれば多少減っても問題ない。

しかし、肝心の貿易収支(輸出量と輸入量の差額)まで減ってきているとしたら、話は違ってくる。

日本の貿易収支は、08年8月にほぼ26年ぶりとなる単月赤字を記録した。その後も第3四半期には10~12月と、3カ月連続で赤字。今年に入ってからも、1月は過去最大9526億円の赤字。2月の貿易収支は824億円で、わずかながらも5カ月ぶりの黒字となったが、輸出入ともに過去最大の減少率を更新した。

4月22日に発表された08年度の速報値(通関ベース)では、7253億円の赤字となり、第二次石油ショックに見舞われた影響で生じた80年度以来、28年ぶりに赤字になることが確定した。

日本の場合、エネルギー関連の輸入量が多いから、エネルギーコストが高くなると貿易収支がマイナスになることも考えられるが、ひところのエネルギー高はすでに収束している。もちろん、米国発金融危機を引き金にした世界的な景気後退が大きく影響しているのは間違いない。だが近年の貿易収支の縮小均衡傾向を見ていると、日本はもはや貿易黒字大国とは言えない。それどころか先々、貿易で外貨を稼げなくなる可能性すら出てきているのだ。

この20年間、日本はおおよそ月5000億円ずつ貿易黒字を稼いできた。それがいきなり赤字に転落した背景には、クルマを中心とした輸出の減少という直接的な要因はあるが、もう一つ、見逃せない構造的な変化がある。それは日本企業の海外移転が進んだことだ。

たとえば、複写機・プリンターメーカーが海外に生産拠点を移して、現地で生産したものを日本に運んで販売する。これは貿易統計上、輸入にカウントされる。つまり、日本のメーカーがそのまま輸入業者になるのだ。現地化した日本企業からの逆輸入が貿易赤字の大きな原因になってきているのだ。