多くの企業が海外への機能移転を実施・検討している

5月1日付の「日本経済新聞」は、三井金属が、スマートフォン(高機能携帯電話)の回路基板向けなどで9割の世界シェアをもつ超薄型の銅箔について、生産工程の一部を海外に移すことを決めたと伝えた。

大量の電力が必要なため、埼玉県の工場では供給量が落ちる可能性があるというのが海外移転の理由であり、「ノウハウ保持のため国内で集中生産してきたが、市場が拡大する携帯端末のサプライチェーン(供給網)の混乱回避を優先する」とのことである。また、4月21日に発表されたロイター企業調査によれば、震災後、工場・営業拠点の移転や取引先の変更を実施または検討した企業は、調査対象400社のうち23%に達し、製造業では50%が、移転・変更先について、「海外も含めて実施・検討」と回答したという。

同じくロイターの村井令二は、その2日前の4月19日に発信した記事「今夏の電力不足で産業部門の節電が難航、経済への打撃に懸念」のなかで、「東電・東北電管内の空洞化も」という小見出しを掲げ、筆者の言葉も引用しつつ、次のように書いた。

「24時間稼働が前提の液晶パネル工場も半導体とは事情が同じだが、すでに日立製作所は、中小型液晶パネル製造子会社の日立ディスプレイズの茂原工場(千葉県茂原市)の生産減に備えて台湾の奇美電子(チーメイ・イノラックス)への生産委託を拡大することを決めた。節電による液晶パネル生産の減少分は台湾への外部発注でカバーする。

一橋大学大学院の橘川武郎教授は『電力25%抑制では、大規模停電が避けられたとしても産業の競争力が落ちる。半導体や液晶は東日本ではもう作れないという話になりかねない。停電よりも、空洞化や経済に与える打撃の方が深刻かもしれない』との懸念を示す」(当時、東京電力管内では、夏のピーク時における25%の電力使用制限が検討されていた)

これらの記事で言及されている工場は、高付加価値製品を製造している場合が多く、日本経済の文字通りの「心臓部」に当たる。それらが海外移転することによって生じる産業空洞化は、「日本沈没」に直結するほどの破壊力をもつのである。

問題を複雑にしているのは、先に示した「日本沈没」への連鎖をつなぐ矢印のうちのいくつかが、合理的判断や「善意」にもとづくものである点だ。