急成長を遂げていた中国のコーヒーチェーン「ラッキンコーヒー」は6月、売り上げの水増しを理由に上場廃止に追い込まれた。作家の黒木亮氏は「中国企業の不正会計はこれだけではない。背景には、腐敗度が深刻で、不正が生まれやすい中国の土壌がある」と指摘する——。(第1回/全2回)
2019年7月12日、中国雲南省昆明市にある中国のコーヒー新興企業「ラッキンコーヒー」のカフェの様子。
写真=アフロ
2019年7月12日、中国雲南省昆明市にある中国のコーヒー新興企業「ラッキンコーヒー」のカフェの様子。

“打倒スタバ”のはずが、1年で上場廃止に

去る6月、スターバックスの向こうを張って急成長を遂げ、6912の店舗を中国全土に持つにいたったコーヒーチェーン、ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲、福建省廈門市)が米ナスダック(新興企業向け)市場での上場廃止を余儀なくされた。2019年第2四半期から第4四半期にかけ、22億元(約339億円)の売り上げを水増ししていたのが原因だ。同社がナスダックに上場したのは去年5月で、一時は時価総額が約127億ドル(約1兆3260億円)にも達したが、1年しかもたなかった。

今年に入ってから、中国企業の不正会計は他にもある。米カラ売り専業ファンド、マディ・ウォーターズに売り上げと利益の水増しを指摘された、学習塾大手でニューヨーク証券取引所に上場しているTALエデュケーション(好未来教育集団)は、今年4月、従業員による売り上げ水増しの不正があったことを認め、株価が急落した。

不祥事を起こした企業は一時期50社以上にも

また、同じく4月、中国の検索最大手、百度(バイドゥ)傘下の動画配信会社で、「中国のネットフリックス」と呼ばれる愛奇芸(アイチーイー、ナスダック上場)が、米カラ売り専業ファンド、ウルフパック・リサーチから売上高や会員数を大幅に水増ししていると指摘された。同社は8月に、SEC(米証券取引委員会)に財務や経営の記録の提出を求められ、テンセントやアリババ集団からの出資の話し合いが棚上げとなった。

中国企業による不正会計は今に始まったことではない。米国の証券取引所では2011年から2012年にかけて、50社以上の中国企業が不正会計などの不祥事で取引停止や上場廃止になり、その後も、毎年のように不正会計で上場廃止になる中国企業が相次いでいる。

売り上げの水増しに賄賂…その大胆な手口

中国企業の不正会計の手口は、会計規則のグレーゾーンをつくといったような生易しいものではなく、犯罪そのものの大胆なやり方である。

先に述べたラッキンコーヒーは、今年4月2日に社内調査の結果、何千万枚ものコーヒー飲用券を同社の会長や主要株主と関係がある会社に販売し、巨額の売り上げを水増ししていたのが発覚した。同社は、5月12日までに銭治亜CEOと劉剣COOを解任し、5月19日にナスダックから上場廃止の通告を受けた。