ゼロベースで行うべき議論の第三グループは、それだけの個人データを一つに寄せたとき、それを誰がどういう権利で使うのか、守るのか、という問題だ。

実は現行の個人情報保護法では、プライバシーは完全には保護されていない。たとえば国税の査察捜査では、銀行などの金融機関に脅しをかけてターゲットの個人データを全部出させているのが実情だ。もう一つ、この共通番号制度に対しては、多くの日本人が極度のアレルギーを持っている。戦前の苦い記憶があるからだ。時の政府は国民の戸籍データを使って、壮健な二男、三男を狙い打ちするかのように赤紙(召集令状)を送りつけた前科がある。この問題があったために左派の人々が国民総背番号制度に頑強に反対してきた、という経緯がある。

為政者や行政によるデータベースの悪用やプライバシーの流出を防ぐため、二重三重のセキュリティをかけるのは当然で、さらに立法、行政、司法の三権の上に「第四の機関」を置く必要があると私は考えている。

20年ほど前に上梓した『平成維新』では、コモンデータベースを守るための組織をつくれと提言した。コモンデータベースの開示に関しては、その機関がすべてを管理して、この部分のデータはこの目的のためには使っていいという判断を三権から独立して行うのだ。時には行政に対しても、国会に対しても、裁判所に対しても毅然とNOを突き付ける。そのためには第四の機関は三権より上に位置していなければならない。

国民全体のインタレストというものを代弁するに足るような良識ある公正無私な人物をオンブズマンに選んで、「人権院」のような第四権力を組織し、国民の大切なプライバシーの集積である「コモンデータベース」のお目付け役になってもらうのだ。このような3つの大切な視点から議論を重ね、国家と国民の関係を定義する作業をしなくてはならない。他国の経験、最新のICT(情報通信)技術、どういう国をつくりたいのか、という国家ビジョン、などの考察を抜きにして国民共通番号制度の議論を拙速にしては住基ネットの過ちを繰り返すだけだ。

(小川剛=構成 PANA=写真)