平時は個性が強すぎたり、とがった人でも、適所を見つけて修羅場を経験させてやると、驚くほどの能力を発揮するというのが井上の持論である。

「今、海外で活躍している連中の中には国内ではもう要らんわ、といって放り出されたやつがようけおる(笑)。でも、彼ここぞという場所に配置するんです」

平時は個性が強すぎたり、とがった人でも、適所を見つけて修羅場を経験させてやると、驚くほどの能力を発揮するというのが井上の持論である。

「今、海外で活躍している連中の中には国内ではもう要らんわ、といって放り出されたやつがようけおる(笑)。でも、彼らは海の向こうの、荒れ野のような修羅場でたくましく育ってくれました」

確かに同社の海外経営陣を見渡すと、駐在歴10年以上というベテラン選手が多い。商社や金融では3年から5年で転勤する例が多い中、長い時間かけて現地に腰を据え、地元の目線で生活している。海外だからこそ居場所を見つけられたという人もいるかもしれない。

あまりにも急激に海外事業が拡大したため、あとを継ぐ若い人材が不足しているという面もあるが、同社は、日本人だけで仕切るのではなく、現地社員に権限委譲するスタンスを取ってきた。

「リスク覚悟で相手をとことん信じ、任せてみる。たやすいことではないですが、現地社員にしてみれば、自分の力で達成できたという成功体験になり、何ものにも勝る活力と帰属意識につながります」

現在、グループ全体で約4万人いる社員のうち、日本人は約1万人。

「海外の優秀な人材の採用に一層力を入れたい。兵たんが広くなりすぎて、日本人を派遣しとったら追いつかんのです」

社員がますます多国籍化する中で、末端にまでダイキンの経営理念を浸透させていくのは至難の業だが、井上は迷ったときには原点に立ち返り、激しいディスカッションを繰り返すという。

「国籍や肌の色、宗教が違っても結局、人は同じ。とことん話せば通じる人には通じる。そんなことが理解できる人や会社が、これから生き残るんやと思う」

井上の好きな言葉は「フロム・ナウ」。来年から15年までの戦略経営計画の立案はすでに始まっている。未来につながる最先端技術を創造するため、約300億円を投資してイノベーション・テクノロジーセンターを建設する構想も動き出している。(文中敬称略)

(小林禎弘、市村徳久、澁谷高晴=撮影)