課題図書を通じて戦略を理解させる

会議のあり方は時代時代で変わります。現在は会議を短くする、資料を少なくする方向に改革しています。インタラクティブな意見交換ならいいのですが、黙って2時間も話を聞くのは、暴力です。知と知、経験と経験がぶつかり合って知識創造されるのが会議の素晴らしさです。議論することが大事で、資料の読み込みや説明に時間をかけるべきではない。一方的に情報を伝えるのは知の伝達であって、知識創造でも何でもありません。

逆に「会議の内容を書き残す」とか「議事録を出す」ということは言ってきました。会議で刺激を受け、深めた議論は個々の頭の中にしまっておかずに、表に出して形にするべきだと思うからです。

開発現場の会議も私が一線にいた時代とは大きく様変わりしています。リコーでは製品開発のプロセス改革を進め、従来の開発案件ごとのプロジェクトチーム制から、マトリクス組織による開発チーム体制へと移行しました。

私が開発のプロジェクトリーダーをしていた80年代当時、チームのメンバーは多くて100人程度でしたが、今や500~600人が普通です。もはや一人のプロジェクトリーダーで開発全体を統括できる時代でも、少人数のプロジェクトチームで個別に開発する時代でもありません。そこで縦割りのチームではなく、たとえば設計であれば電気設計や機械設計、プロセス設計というように機能の部署を横串にしたプロジェクトマネージャー(PM)による開発チーム体制に変え、開発作業が同時並行的に進められるようにしたのです。この改革で開発のスピード・精度は格段にアップしました。開発会議の形式も大きく変わり、現在はPMによるミーティング、事業部長のミーティング、社長を含めた事業マネジメントのミーティングというシステムを取っています。

私は、どこの会議にも顔を出します。2週間に1度のペースで事業所や営業所を回って現場のミーティングにも顔を出しては、座り込んで口を挟んでいます。

リコーの会議が変わりつつあるもう1つの要因はグローバル化です。今やリコー社員は世界に11万人を数えます。この会社が未来に向かって生き延びてゆくためには、ビジネスをよりハードからソフトへ、さらにネットワークへとシフトし、顧客価値を立体的に展開しなければならない。

現場に権限を委譲して顧客視点でお客様との関係を強化していくことも必要です。いわばグローバルとローカルの中間である、「グローカル」のインテグレーション構築を現実化するために、2009年6月に新しくグローバルマーケティング本部を設置しました。海外の先進的なビジネスの手法やカルチャーを取り込む一方で、リコーの仕事の流儀である「リコーウェイ」を世界に発信してゆくという相互作業に期待しています。ディベート下手な日本人特有の会議のあり方も当然変わってくるでしょう。

すでに年に1、2回、世界中のマネージャーを集めたグローバル戦略会議を開催していますが、この会議では開催の1月ほど前に課題図書を配ってあらかじめ勉強してもらいます。直近の課題図書はクリス・ズックの『コア事業進化論』。課題図書を通じて、トップマネジメントが描く戦略のアウトラインや方向性を事前に理解してもらえるので、それほど議論が散らかる心配はありません。

(小川 剛=構成 市来朋久=撮影)