香港ドルが人民元ではなく米ドルに固定される理由とは

日本のように変動為替相場制度の下で為替相場の乱高下に悩まされている国に対して、香港は、香港ドルを米ドルに固定させるカレンシーボード制度を採用して、為替相場の安定を享受している。カレンシーボード制度とは、固定為替相場で外国通貨(香港の場合は米ドル)と自国通貨を交換し、外貨準備と等しいだけの自国通貨を発行する制度である。そして、香港は、カレンシーボード制度の下で金融政策の自律性を放棄し、国際金融都市として自由な国際資本移動を享受している。

香港においては、貿易の大半が中国本土と行われていることから、米ドルに香港ドルを固定させておいてよいのか、むしろ人民元に香港ドルを固定させたほうがよいのではないかと、研究者の中で議論が行われている。しかし、人民元は、経常勘定取引の交換性はあるものの、資本勘定取引の交換性が資本管理や外国為替管理によって制限されているために、国際金融都市香港としては、人民元に香港ドルを固定させることを躊躇することとなっている。

中国は、05年7月21日の人民元改革発表以前には、国内政策目標のために金融政策を運営する一方、為替相場の安定、とりわけ、人民元を米ドルに固定するドル・ペッグ制度を採用していた。そのために、自由な国際資本移動を放棄し、厳しい資本管理と外国為替管理を課していた。

しかし、05年7月21日に人民元改革を発表し、ドル・ペッグ制度をやめて、通貨バスケット(米ドル、ユーロ、日本円など)を参照とした管理フロート制度に移行した。実際には、世界金融危機発生直後の一時期にドル・ペッグ制度に戻ったものの、通貨バスケットではなく米ドルを参照として徐々に人民元を切り上げるというクローリング制度を採用している。そのために、同時に国際資本移動の自由度が徐々に高まっている。それが、オフショア市場に限定されているが、人民元の国際化に反映されている。

一方において、人民元の国際化は、前述したように、資本勘定取引の交換性が資本管理や外国為替管理によって制限されたままであるために、貿易取引などの経常勘定取引でしか進んでいないのが現状である。また、一部の資本勘定取引の交換性がオフショア市場に限定されて、ゆっくりと進んでいる。このような部分的な人民元の交換性は、人民元の国際化を部分的にしか進めていない。とりわけ、人民元の対米ドル為替相場が徐々に変動性を高めるにつれて、外国為替リスク管理が必要となる。

しかし投機にも利用されかねないという理由から、先物取引やオプション取引や非居住者による人民元建て借り入れなどの制限が存在するかぎり、人民元の国際化は不十分なままであろう。しかし、図にあるように「国際金融のトリレンマ」の中で中国のポジションが為替相場の変動性を高める方向に進むにつれて、外国為替リスク管理のために資本管理や外国為替管理の規制緩和が必要となってくる。

(図版作成=平良 徹)