各国政府が同時には達成できない3つの目標

東アジアにおいては、各国の通貨当局が様々な金融政策や為替相場制度を採用している。先月(4月)に北京の中国人民大学で開催されたアジア政策フォーラムに、日本、中国、韓国、台湾、香港の研究者が集まって、これらの国の金融政策・通貨政策について議論が交わされた。そのフォーラムにおいて筆者が予定討論者として報告した際に利用した「国際金融のトリレンマ」と呼ばれるフレームワークを使って、これらの国々が採用している様々な金融政策や為替相場制度を説明しよう。まず、「国際金融のトリレンマ」とは何か。外国の経済主体と貿易取引、資本取引、金融取引を行っている開放経済においては、政府は、同時には達成することのできない3つの目標に直面している。

1つは為替相場の安定であり、もう1つは自由な国際資本移動であり、第三は、国内の政策目標のために金融政策を実施することのできる金融政策の自律性である。これらの目標はすべて望ましい目標である。

為替相場の乱高下やミスアライメント(ファンダメンタルズからの中期的な乖離)は貿易取引や資本取引の阻害要因となり、これらの取引量を減少させてしまう。国際資本移動が自由であれば、収益率の高い有利な投資先に資金が集まり、資金運用者にとっても、その有利な投資案件をもつ企業にとっても、望ましい。国内の政策目標のために金融政策を自由に運営することができることは、言うまでもなく国内経済にとって望ましい。

しかし、これらの3つの目標のうち、2つの目標のみは同時に達成することができるが、他の1つの目標は同時に達成することができないために、政府が3つの目標のうちどれかを放棄しなければならず、どの目標を放棄するかを決めなければならないという状況が、「国際金融のトリレンマ」と呼ばれている。

例えば、もし政府が国内の目標のために金融政策の自律性を確保して、外国の金利から離れて国内金利を誘導しようとするならば、自由な資本移動の下では、国際的な金利裁定取引を通じて、資金が移動し、為替相場が変動する。そのため、為替相場の安定を放棄しなければならない。

一方、為替相場の安定を維持したいのであれば、国際的な金利裁定取引を自由に行えないようにするために資本管理や外国為替管理を課して、自由な国際資本移動を放棄しなければならない。

各国の政府によって、前述した3つの目標(為替相場の安定、自由な資本移動、国内政策目標のための金融政策の自律性)の間のウエートのかけ方が異なる。とりわけ、東アジア諸国の間でその相違は顕著である。

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図は、「国際金融のトリレンマ」を図示したものである。三角形の3つの頂点はそれぞれ3つの目標(為替相場の安定、自由な資本移動、国内政策目標のための金融政策の自律性)を意味する。そして、その反対側の各辺には、それぞれの目標の反対の状況、(為替相場の安定に対して自由変動、自由な資本移動に対して資本管理・外国為替管理、国内政策目標のための金融政策の自律性に対して通貨同盟・カレンシーボード)を示している。

日本は、自由な国際資本移動の下で国内政策目標のために金融政策を運営していることから、為替相場の安定を放棄して、変動為替相場制度を採用せざるをえない。そのために為替相場は乱高下したり、ミスアライメントを起こしている。

韓国も、世界金融危機以前は、日本と同様であった。ただし、アジア通貨危機のとき国際通貨基金(IMF)の金融支援を受けた際に、インフレーション・ターゲッティングの金融政策を採用することを金融支援のコンディショナリティとされたために、インフレーション・ターゲッティングを採用している。しかし、世界金融危機以前に流入していた欧米金融機関からの資金が世界金融危機の影響を受けて、急激な逆流が起こり、韓国ウォンが大暴落した。そのため、韓国の通貨当局は、資本規制を導入して、為替相場の安定を図ろうとしている。