今日では、早期胃がんを一括して取ることのできるESDは内視鏡治療の約80.90%を占めるようになった。このESDは小野部長が国立がん研究センターのレジデントだったときに、同僚2人とともに開発した。

「正確には先輩の細川浩一先生が“『内視鏡的粘膜切除術(EMR)』では、切除部分がブチブチになってしまうので再発が多い。がん病巣を一括して綺麗に取れないか”、と考えていたのです」

EMRは内視鏡の先端からループ状のワイヤを出して隆起させておいたがん病巣にかけ、ワイヤを締めて高周波電流を出して焼き切る。この方法の弱点は直径2センチ程度になると分割して取ることになり、再発率が約20%もある点である。

がんの周囲を切り、剥ぎ取るアイデアが浮かんだものの、いい医療機具がない。そのとき、細川医師が“針状高周波メスの先端に絶縁体をつけよう”と。すぐさま犬で実験を行い、臨床応用にこぎつけたのが1995年の暮れ。

細川医師は転院し、後輩の後藤田卓志医師が開発に加わった。

「国立がん研究センターには欧米人医師が数多く研修に来ており、私たちが行っている血だらけのESDを見て、“腕を広げ、肩をすくめて”治療室を出ていきました。悔しい思いを何度もしました」

ときには、止まらない出血を後ろで見ていた先輩に、“外科に頼め!”と一喝されたことも――。

「そのうち、切っていくとがん部分がキュッと縮んでいくことを発見し、そのまま粘膜下層を剥離したら取れてしまったのです」

1998年、悪戦苦闘の末にESDが技術的完成をみた。5年後にITナイフが市販され、2006年に保険適用になるや、ESDはあっという間に広がった。

その小野部長が内視鏡治療での名医の条件を――。

「まずは腕です。第2が心です」

“早く、正確に、安全に!”――小野部長のモットーである。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=尾崎三朗)