戦う姿を見せながら一騎当千の強者を育成

振り返ってみると、その住友金属小倉の時代が私のビジネス人生のなかで一番苦しかったのかもしれない。が、いまとなっては楽しい思い出であり、その貴重な経験は05年6月に住金物産の社長に転じてからも生かされている。前任の上田英一社長が、その4年前の就任時に「当社の生存率は50%」と判断していたような状況だったからである。

もっとも、幸いなことに上田前社長の時代に最悪期を脱し黒字に転換した。私の使命は、ひよわな会社から普通の会社にし、さらに強い会社にしていくことであった。そこで、社長に就任してすぐに、早期の東証一部上場という大目標を掲げた。その目標は、昨年12月に実現できた。

現在は、世界景気拡大にともない鉄の市況が堅調なこともあって、業績は最高益を更新中である。しかし、たとえ外部環境が悪化しても会社の基盤が揺らがないように、経営環境のよい、いまこそ手を打っておく必要がある。

それには、『三国志』で各国が競って人材を集めたように、次代を担う人材の育成や充実を図るしかない。現在、冒頭で述べた4つの分野で専門性を発揮していく“複合専業商社”としての体質強化を目指している。それには、各分野に精通した一騎当千の強者たちを育てていくことが重要になる。

経営哲学や経営理念を口で教えることは大切だが、それだけではダメだ。経営トップや現場の先輩が、どんなに苦しい状況にも背を向けず、顧客の信頼を勝ち取る姿を見せることが、若い人を育てる最良の方法である。

そして、若い人の意見を引き出し全員の士気を高めながら、「吾之を思うこと久しかりき。未だ其の人を得ざるのみ。今日始めて之を得たり」と孔明のように適材適所の人材登用を積極的に行っていくのだ。

できれば時間を少しずつでもつくって、『三国志』を読み直してみたい。なぜなら『三国志』には、いつも新たな発見があるからだ。

(岡村繁雄=構成 川本聖哉=撮影)