準備のコツ、全員の巻き込み方、流れの修正法

<strong>星野リゾート代表取締役社長 星野佳路</strong><br>1960年、長野県生まれ。83年慶應義塾大学卒。86年コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。シティバンク銀行などを経て、<br>「リゾート運営の達人」を掲げ、日本全国でリゾート施設や旅館の再生事業を手がける。会議では思いつきの発言でもいいが、「事前準備、必要なデータの整備、論理的な流れ」は重視している。
星野リゾート代表取締役社長 星野佳路
1960年、長野県生まれ。83年慶應義塾大学卒。86年コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。シティバンク銀行などを経て、「リゾート運営の達人」を掲げ、日本全国でリゾート施設や旅館の再生事業を手がける。会議では思いつきの発言でもいいが、「事前準備、必要なデータの整備、論理的な流れ」は重視している。

誰もが「いつでも、誰にでも、どんなことでも」遠慮なく意見を言い合える「侃々諤々(かんかんがくがく)の文化」。これが星野リゾートの強さを支えている。地方の温泉旅館など、当社が再生に携わる施設も例外ではない。

ただ、再生先のスタッフは上意下達の文化に染まりきっていることがほとんどだ。星野リゾートによる支援が決まり、初めてその施設へ出向く。すると幹部らをはじめ、スタッフ全員が出迎えてくれる。気持ちはありがたいが、その裏には「あなたが責任者なのだから、好きに決めてくれ」という当事者意識の希薄さが透けて見える。まずは、この意識を変えなくてはならない。

彼らが変わるきっかけは2つある。1つは、スタッフの誰かが「キレる」ことだ。一緒に施設の再生に取り組んできた人が、あるとき会議の場で、「この会社はひどいじゃないか! こんなやり方では絶対にダメだと思う」と叫び出す。すると堰を切ったように、ほかのスタッフも「たしかにそのとおりだ」「こうしたほうがいいんじゃないか」と自分の意見を口にしはじめる。

そして議論が進んでいくのだが、ふと振り返ってみると、反対意見を言ったからといって咎められるわけではないことに気づく。むしろ言いたいことを言えば風通しが良くなり、自分たちに参加者意識が芽生えるということにメンバー全員が気づきはじめるのである。

もう1つのパターンは、会議で私の発言を聞いているうちに「社長の言っていることがすべて正しいとは限らない」と気がつくことだ。

発言するとき、私は「アイデア出し」をするだけで、決定事項を伝えているつもりはまったくない。しかし上意下達に慣れきった人たちにとっては、社長の言葉は指示であり、決裁であり、絶対の命令である。だから息をつめるようにして聞いている。

ところが次回の会議で私がまったく違う意見を言うこともある。「なんだ、社長の話は思いつきだったのか」。そう気がついたところで、それぞれが自分でも思いつきをどんどん喋るようになるし、私の発言を絶対視しないようになるのである。

この段階までくると、今度は会議をコントロールする必要が生じる。まず、発言者が偏らないように誘導し、全員に参加者意識を持たせることが大事だからだ。現在、再建を手がけている施設では月に1回は必ず、社員全員を集めた「全体会議」を行うようにしているが、その際に実践しているのは次のようなことだ。