タタ自動車のラタン・タタ会長。2009年末までに年産能力25万台の専用工場を印西部に稼働させ、ナノの販売を本格化する。
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タタ自動車のラタン・タタ会長。2009年末までに年産能力25万台の専用工場を印西部に稼働させ、ナノの販売を本格化する。

実際、トヨタが現在のような苦境に直面する数年前から、クリステンセンはトヨタの低迷を予想していた。その理由はレクサスの導入である。

レクサスのような高級車で儲けるバリューネットワークを構築した企業は、100万円を切る車で利益を出すことはできないというのがクリステンセンの指摘だった。

しかし、クリステンセンの見方は必ずしも日本企業には当てはまらないのではないか。私にはそう思える。

クリステンセンはアメリカの鉄鋼業界のケースを分析し、低コストの経営構造をもって業界に参入してくる企業は、高コスト構造の業界トップ企業を追い詰めていくという命題を立てた。

アメリカの鉄鋼業界において、くず鉄を融解して鋼材を生産する電炉メーカーは当初、品質が厳しく問われない鉄筋市場から参入を開始した。

この攻勢に対して当時、業界の覇権を握っていた高炉メーカーは低価格で利益率が低く、生産量も小さな鉄筋市場に見切りを付け、早々に撤退していった。

コスト負担の小さな電炉メーカーは魅力の低い市場でも一定の収益をあげ、そこを足がかりに品質の高い鋼材を生産できるようになった。そして徐々に付加価値の高い市場を侵食し、ついには高炉メーカーを袋小路に追い込んだのである。

こうした例はハーレーダビッドソンに対するホンダ、百貨店に対するディスカウントストアなど多くのケースがあり、クリステンセンの命題は一種の社会法則のようにも思える。

ところが、日本では新日鉄をはじめとする高炉メーカーは滅びておらず、逆に電炉メーカーから撤退する企業が出てきた。

電炉メーカーの攻勢がなかったわけではない。日本の高炉メーカーはその攻勢に耐え、逆に反撃し市場を奪い返したのだ。反撃できた要因は、高炉メーカーが臨海部にコンビナートを持っていたことが大きい。

幅広い製品群をコンビナートの巨大工場で一貫生産する体制を取っていたため、日本の高炉メーカーは低価格製品でも捨てるわけにはいかなかった。そこで逆にフルライン生産している強みを活かし、各製品の需要変動をうまくバランスさせて対応できる柔軟な製販一体のシステムをつくり、電炉メーカーに勝利していったのである。