新型コロナウイルスの感染拡大が経済活動を直撃している。リモートワークが広がりオフィス街で働く人はめっきり減った。一方、ものづくり現場は夏以降、コロナ前の水準に戻り、輸出も回復し始めた。「3密」が避けられないものづくり現場で今何が起きているのか。東京大学大学院の藤本隆宏教授に聞いた——。(第1回/全3回)
東京大学大学院の藤本隆宏教授。
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京大学大学院の藤本隆宏教授。

工場はちゃんと動いていても「当たり前」となる

——オフィス街の人通りはめっきり減り、日本経済は大丈夫か? と思う日々ですが、ものづくり現場をみると少し様子が違います。この8月以降は、トヨタ自動車がほぼ当初計画並みの生産台数となり、輸出比率の高いマツダも通常の操業体制となり、前年比8割ほどの生産台数のようです。ものづくり現場の様子はオフィス街とは少し違うようですね。

【藤本】工場はいわば「沈黙の臓器」です。止まってしまうと「大変だ!」とみんなが騒ぐのですが、ちゃんと動いていると「当たり前だ」と受け止めてしまいます。

日本のものづくり現場は、遠隔操作のみでは安全かつ安定的な操業が難しく、要所要所で密集的な集団作業が避けられない職場環境ですが、結果的には、コロナ禍という極度の逆境の中でも大きなクラスターを起こさずに多くの工場が動き続けています。これはとても大変なことです。工場へのウイルスの侵入を食い止め、感染防止に万全を期していることの証明です。この事実はもっと注目されるべきです。この間、緊急事態宣言期も含めてフル操業が続いていた国内工場は少なからずあります。

なぜパナソニックの甲府事業所はフル稼働を続けられたか

【藤本】たとえば半導体の実装機を製造するパナソニック スマートファクトリーソリューションズの甲府事業所は、春先からずっとフル稼働です。ここは、1月ごろの中国部品サプライヤーのロックダウン閉鎖、3月ごろのASEAN(東南アジア諸国連合)のサプライヤーのロックダウン閉鎖に対して迅速な代替生産・代替供給で対応する一方、工場内の感染防止対策を完璧に行いました。

そんな努力もあって、同工場の納期・生産の安定性を高く評価した海外の顧客から大口注文が入り、それを積極的に受注したため、4月からずっとフル稼働です。つまり、サプライチェーン確保、需要創出、感染対策徹底、この3つを高いレベルでこなす日本の国内優良工場は、緊急事態下も、その前後も、高稼働率で動き続けていたわけです。

このような結果は、尋常な努力でできることではなく、現場の高いものづくり能力と感染防止能力、営業の受注努力、工場幹部の胆力、サプライヤーの実力と協力などが融合して初めて可能なことです。メディアが緊迫する医療現場や危機下の接客サービス業等に取材を集中するのは分かりますが、こうした製造現場の緊急時の底力にも、もう少し目を向けてもらいたいと思います。

ちなみに、4月ごろに、多くの国内自動車工場が操業を一時的に停止したのは、世界自動車市場の縮小、需要不足による生産調整が主因でした。