ヤナセは創業100年に向け「世界ナンバーワンのプロフェッショナルなカーディーラーになる」という目標を掲げる。そんなプロフェッショナルカーディーラーの素材となる新卒学生は単に体育会系出身だからという理由で採用されるわけではない。選考の着眼点は「競争性が強い」「感受性が豊か」「頭の回転が速い」――の3つだ。

「ディーラーは頭脳だけの人に勤まる仕事ではありません。競争性が強いことはもちろん、お客様と接して感謝されるような感受性の豊かさ、そして頭の回転の速さ。頭がいいということではなく、頭の切り替えが速いという意味で、そういう人は自己成長できる人だと考えています。この3つを面接では見ています」(磯人事部長)

選び抜かれた素材はやがてプロのディーラーへと成長していく。同社は2代目の梁瀬次郎社長時代に「お月さん(三)作戦」、つまり一人が月に3台売ることを目標に掲げてきた。仮に1台1000万円なら3000万円。同社のディーラー1000人が売れば年間3600億円の売り上げになる計算だ。この不況下でも月に5~6台売り続ける営業マンも珍しくない。

では新人をいかにしてプロのディーラーに鍛え上げるのか。教育は徹底したOJT(職場内訓練)がベースとなる。入社2~3カ月は配属先の先輩社員が指導役となり、挨拶の仕方、名刺の出し方などマナーを教え込むと同時に商品知識を学習する。その後、半日間社内で学習し、残りの半日は一人で現場に出すということを続け、次に先輩と帯同して実際に顧客を訪問する。

「先輩がお客様とどう接しているのか、先輩の姿を見てコツを覚えさせるのです。それを繰り返し実施した後、今度は逆の立場になって新人が先にお客様宅を訪問し、先輩がフォロー役となって付き添います。この教育を2~3カ月行います」(磯人事部長)

入社半年後の10月になると、営業見習いから正式に営業職となり、半期の目標値を設定し、基本的に一人で動くことになる。もちろん会社も一人前と見なしているわけではない。「時にはライオンがわが子を千尋の谷に突き落とすぐらいのことをしなければ甘えも出る。先輩がフォローしながら実践を重ねることで自分なりのノウハウをつくり上げていく」(磯人事部長)ことに目的がある。

そうはいっても大学卒業後、半年足らずの社員が見知らぬ家を突然訪問し、しかも高級車を売るのは至難の業だ。事実、最初は車を売るどころの状態ではないという。

「まず一人で行ったら飛び込みができない。インターホンを押すのに躊躇するようです。押してしまったら何か話さなければいけませんが、どう声をかけていいのか迷う。車の話までできずに挨拶で終わったとか失敗談は数多くあります。とくにマンションの場合は、車の話をするどころか中に入れませんし、カタログ一つも渡せないというのはしょっちゅうです」(磯人事部長)